「6月16日はワセダにとってメモリアルデーになる。それはこの日が、スクラム、ラインアウトでワセダが日本一になるファーストステップとなるからだ」。世界最強プロップ、デビット・ヤング臨時コーチが、『早明戦』を前に学生を鼓舞した強烈なメッセージ。「絶対に負けないという強い気持ちを持って戦え」…。あれから2年、北の大地・札幌から豊の国・大分へと舞台を移し、『最強ワセダ』が再び『重戦車』を解体した。
開始早々の2分。まずは挨拶代わりのドライビングモールで、易々とインゴールを陥れると、その後もFW戦で宿敵を圧倒。現代ラグビーの要点・前5人が豊富な運動量、激しさ、そして意識で格の違いを見せつけ(特に両ロックは完全に相手を凌駕、ラインアウトも抜群)、『早明戦』とは思えない安定したゲームを展開した。
しかし、19-0で迎えた27分、ゴール前で訪れた4:2、完全なるトライシチュエーションで、地元・大分舞鶴出身(生まれ育ったのは実は福岡)SO久木元孝成がインターセプトを喰らうと、よもやのペースダウン。「あれがトライになっていれば、完全に勝負がついたのに」(古庄コーチ)。すべての局面で上回りながら、前半はもう1トライを加えるに留まった(24-7)。「前半崩しきれなかったのは今日の反省ですね…」(主将・諸岡省吾)。
ワセダらしからぬツメを欠いたこの展開には、清宮監督も少々お怒り。「メンバーを変えない意味を考えろ。最初の10分で勝負をつけてこい」。快勝ペースはどこへやら、チームはこの上ない緊張感に包まれた。
こんなとき、頼りになるのはやはりこの男、NO8佐々木隆道。最大集中のファーストアタックで、ギャップを見逃さずウラに抜け出すと、そのまま絶妙なラストパス。これぞ百戦錬磨の成せる業。勝負どころを知り尽くした佐々木隆道の32秒一発解答が、チームを再び気流に乗せた(その後のプレーももちろん秀逸…)。
これでチームに一本芯が通る(通す)と、ここからは『ULTIMATE CRUSH』inビッグアイ。「後半はうまく修正できた」(副将・後藤翔太)と言う様に、ビューティフルトライを連発した。この一連のトライラッシュで核となったのは、紛れもなく『九州の至宝』三角公志。豪快なタテあり(2人は必ずコミット)、キレキレのステップあり。「見違えるよう。さすが覚醒しただけのことはあるね」。清宮監督も思わずニヤリの活躍で、レギュラー取りへまた一歩前進した。
終わってみれば71-14の圧勝劇にも、主将・諸岡省吾はまだまだ満足できない様子。「相手が緩くなる前からもっと自分たちの形を出さないと関東相手には厳しいと思う…」。『諸岡組』最大ターゲットは王者・関東学院大。あの悔しさを晴らすまで、ワセダの精進は終わらない…<早大ラグビー蹴球部広報 疋田拡>
<充実の日々を送る主将・諸岡省吾>
「前半はチャンスを作っても、取りきれず帰ってくることが多かった。BKにミスが出たこともあるけれど、FWもよくはなかった。前半崩しきれなかったことが今日の反省点。後半は清宮さんに指示された通り、空いたところを攻めることができた。最後はああいった形になったけれど、最初から思い通りに崩せないのが課題ですかね。試合が決まって、相手が緩くなる前から自分たちの形を出していかないと、関東相手には厳しいと思う。点差ほどはいいデキではなかったと思うので、次はもっといいゲームがしたい。スクラムとモールで取られるのは絶対にやめようと話していたので、みんな意識した通りにそこでやられなかったのはよかったと思う。スクラムはプレッシャーはかけているけれど、うまく崩しきれてない感じ。(コーチの)小山さんや青木とも話したけれど、相手によって組み方を変えないといけないのかなと。一辺倒では相手に対応されてしまいますから。FWは順調にきているけれど、流れの中のディフェンスで抜かれてしまう場面があったので、次はそこの意識を高めていきたい」
<故郷への凱旋試合となった副将・後藤翔太>
「今日は地元での試合だったので、いいプレーをしなければという気持ちがあった。応援がたくさんあってがんばれた(観衆は11,240人と大盛況)。派手なプレーはなかったし、ちょっと相手にやられたところもあったけれど、後半はうまく修正できたと思う。自分としてもまずまずのプレーができた。大分で試合をするのは7年ぶりくらい。本当に立派なスタジアムで、今日はプレーできて嬉しかったですし、早明戦を大分に招待してくれた方々に感謝しています。試合のできなかったこの4週間は、自分が入ったらこうしようとかそういったことを考えるよりも、チームから離れる悔しさがとにかく大きかった。もっとラグビーがしたくなったし、もっとうまくなりたいとも思った。ケガでチームを離れて、そう思えたことは自分にとってプラスになるのかなと。今日もいくつか修正点が見えたので、ひとつひとつのプレーに気を遣って、精度を上げて、『ULTIMATE CRUSH』していきたい」
<攻守に相手を凌駕したロック内橋徹>
「前半何もしていなかったので、後半はFWでいってやろうと思っていた。FWが前にいきだしてからリズムが出て、トライを取れた。前半は相手が余りブレイクダウンに入ってこなくて、立っていたのにそこを狙えてなかった。後半に入って指示通りのところを攻められたのはよかった。今日の相手ならばもっといけたと思う。自分としてはボールを持ったら思い切りいってやろうと思っていた。余っている状況でボールを貰う場面が多くて、パスするか迷ったけれど、突っ込んだときにはとことんいってやろうと。今日はFW全体としてもゲームを支配できたと思う。今のワセダのいい形を試合中常に出し続けて、FWでいくならいく。BKで取るべきところではBKで取る。そういったところをこれからはもっと統一して戦っていきたい」
<日ごとに存在感を増すフランカー古島直>
「まだまだブレイクダウンのところが甘い。特に前半はよくなかった。そこのところでもっと『ULTIMATE CRUSH』しなければいけない。チームとしてのデキもまだまだ。関東を目指すのであれば、ここで終わってはダメ。後半は清宮さんの指示したところをうまく攻めることができたと思う。ゲインする場面が多かったのは、自分の仕事をしている中で、たまたまボールがきているだけです。まだまだ自分のプレーには満足できない。関東戦ではいい試合がしたいですね。今年は下にもいい選手がたくさんいるので、とにかく負けないようにと思ってやってます。昨年の決勝、最後の瞬間にグラウンドにいた悔しさは今でも忘れません。今年は日本一を奪回します」
<この日も大活躍を見せたCTB三角公志>
「今日は前半に自分の得意の形を出せていなかったので、後半はやってやろうと思っていた。相手のディフェンスが少し変わっていて、最初はそれにうまく対応することができなかったけれど、ハーフタイムに孝成と話して、後半は修正することができた。FWが前に出てくれていたので自分もドンドン抜くことができた。自分ではステップがキレている感じはないんですけど…。流れの中での自分の出し方がだんだん掴めてきた。これからは前半からそれを出して、チームの流れを作っていきたい。後半修正できたこともあるけれど、相手が切れていたというのもある。何度か裏に出られた場面があったので、そこは組織で対応していきたい。今日は暑くて大変でしたけれど、九州のこの暑さには昔から慣れていますから(笑)」
<ついに赤黒に辿り着いたSO高橋銀太郎>
「今日は赤黒を着ることができて本当に嬉しかったです。昨日はBの試合で疲れきっていたので、緊張することもなくガン寝しました(笑)。まさか自分が遠征に来られるなんて思ってなかったので、昨日の夜は親父とご飯を食べる約束をしていたんです。そうしたら突然遠征に参加することになり、キャンセルしたんですけど、うちの親父携帯持っていないので大変でした(笑)。今日は少しの時間でしたけど、あの舞台に立てて楽しかったです。ケガしたとき(1年時、U19日本代表候補合宿で大ケガ)は自分が赤黒着ている姿なんて想像できなかった。リハビリしていても、スピードは戻らないし、キツイなって。でも今日こうして着ることができて、地道にやってきた甲斐がありました。3年生はみんながんばっているので、自分も今シーズンは赤黒を目指して、持ち味を発揮していきたいです」