「テーマは昨年のあの試合だ。みんな分かっているみたいだから、もうこれ以上俺から言うことはない」(清宮監督)―。言葉にせずともしっかり胸に刻まれ、共有されたあの試合への特別な想い。追い詰められた2メートルを跳ね返せ。自ら考え、自らが行動する。2005年ファーストゲーム、『諸岡組』がまたひと段階大人のチームへと成長した。そして秘められたもうひとつの想い。三冠王・古島直を決勝へ―。
試合は序盤から『諸岡組』の強さ、そして強固な意志を見せつけるかのような『拘り』の展開。モール、モール、ワイド、モール。「最初はFWでガツンといってやろうと決めてましたから」(副将・桑江崇行)。意志あるところに道は開ける。そう言わんばかりの電車道モールで、5分と経たないうちにインゴールを陥れた。「130人全員の力、今年のワセダの強さがどれほどの物か見せてやる…」(主将・諸岡省吾)。
この意図どおり、お望みどおりのトライで労せずして先手を奪うと、ここからは雪ニモ負ケズ最良の状態を保った(試合メンバー以外による連日連夜の雪かきでグラウンドは万全!)聖地・上井草での光景がそのままフラッシュバック。他チームにはマネのできない両ロックによる超ハリー(判断が秀逸!)、『音速の翼』・首藤甲子郎へのワイドパス一閃(練習に練習を重ねたSHからの一気の展開。会心のスーパートライです!)、スピード、判断、タイミングすべてがドンピシャのSH後藤翔太のサイドアタック…。まさに赤黒の真骨頂、機をみるに敏。ザッツ・ワセダともいうべき『新春トライラッシュショー』で、瞬く間に相手を引き離した。
「おいワセダ、分かってんだろうな。昨年はここからやられたんだぞ!」(副将・後藤翔太)。26-0。それでもハーフタイムに飛び交う激しい怒号。あんな情けない試合はもう二度と…。受けに回らぬ強い意志、決して渡さぬ主導権。後半こそが乗り越えなければならない本当の戦い―。ここからが『諸岡組』の成長の証だった。
ハイライトはトライを許した直後、自らのミスで流れを失いかけた局面に飛び出した『魂のワンプッシュ』。最悪の形で相手ボールスクラムを献上すると、「ここしかない」という、この日1番の『拘り』で相手8人をまとめて粉砕。抜群の反応を見せたSH後藤からCTB菊池和気へ美しくパスが通った瞬間(観衆の目はインゴールへいっても、伊藤雄大、桑江らは会心のガッツポーツ!)、昨年のあの悪夢は遥か彼方へ消え去った。『清宮ワセダ』の格言・ラグビー=スクラム―。
「やっぱりラグビーはスクラムの強いチームが勝つ…」。百戦錬磨の指揮官が感慨深げに振り返ったように、この日は序盤の僅かな時間を除き相手を圧倒し続けたスクラムこそが最大の勝因。大学ラグビー界屈指のスーパータレント集団、同志社BK陣に才能の爆発を許しても(清宮監督も個々の能力の高さを絶賛。選手もディフェンスに一苦労…)、局面局面の『拘り』で、勝利が揺らぐことは決してなかった。「昨年ははぐらかさせてまともに組ませてもらえず、悔しかったですから…」(プロップ・伊藤雄大)。
『反骨心』、古島への想い、そして『魂のワンプッシュ』で、自らの正当性を証明する唯一の舞台・ファイナルへとついに到達。相手はもちろん、最高のライバル・関東学院大。「ずっと待っていた相手。ようやく舞台が整った」(清宮監督)、「やっと来たかという感じ。130人の集大成を見せる」(主将・諸岡省吾)…。「清宮待ってるぞ」。忘れもしない、その一言から始まった1年もいよいよクライマックス。2年分の想いの丈を関東に―。2005年1月9日、『荒ぶる』が『諸岡組』を呼んでいる…<早大ラグビー蹴球部広報 疋田拡>
<待ち望んだ関東学院との決戦に満面の笑みを浮かべる清宮監督>
「今日はワセダの強みであるFWを前面に出せて、特にスクラムでプレッシャーを懸けることができてゲームを支配することができた。両チームにほとんど差はなかったけれど、唯一スクラムだけワセダが圧倒していた。同志社は個々の力がワセダより優れている選手が何人もいたと思う。特にBKのあの能力はすごい。ちょっと違う戦い方をされていたら、ワセダとしてはもう少し苦しかったかもしれない。ただそんななか勝つことができた1番の要因はスクラム。試合中に紫紺じゃねぇんだぞお前ら!って声が聞こえて、自分も少しんーって思ったけれど(笑)、ラグビーは伝統を見せ合うだけのスポーツではないので、お客様にもご理解頂ければと。前の試合課題だったゲームコントールはだいぶよかったと思う。9番と10番、十分期待に応えてくれた。今日はFWで崩していたけれど、得点を取っているのはほとんど9番からの動き。ゲームを作るのは10番だけじゃないぞと言ってきたとおりに、後藤はよくやってくれた。スクラムでプレッシャーを懸けるのは、マイボールでいいアタックをするという意味ももちろんあるけれど、それよりもBKがいいチームに意図どおりのアタックをさせないというところが大きい。やっぱり自論どおりスクラムの強いチームは勝つ(笑)。ラグビーはスクラムです。関東は今日の後半はよくなかったみたいだけれど、ここ2試合ベストゲームを続けてきて、さすが。ずっと待っていた相手だし、ようやく舞台は整ったという気持ち。ワセダは相手によって戦い方を変えられるチームだから、FW、BK問わず相手に勝てるところでいくだけ。決勝でどちらでいくかは、1週間後のお楽しみ。見て頂ければ分かります。どちらにしろFWは1発2発ぶん殴るだけだから(笑)。今日タックル外された奴、ノックオンした奴には気合を入れておきます」
<ついにチームを決勝へと導いたカリスマ主将・諸岡省吾>
「昨年は後半追い上げられて、無様で悔しい試合をしてしまったので、今年はその借りを返そうとみんな気合いが入っていた。FWに関して言えば、相手のBKがどんなによくても自分たちで勝つんだと話していて、そのとおりに崩すことができたのが勝因だと思う。ビデオで見て、同志社のFWはそんなに強いという感じはしなかったので、まずFWでプレッシャーを懸けて、その後BKでいこうと考えていた。スクラムは正直もっといけると思っていたけれど、同志社の組み方が変則的で、最初はなかなか対応することができなかった。途中からはうまくできたけれど、もっとプレッシャーを懸けたかった。相手の継続ラグビーに対して集中を切らさずに我慢できたところは評価できると思う。ひとつめのトライはタックルミスで、余られた訳ではないし、最後の2本も勝負が決まった後、抜けたような感じのミスが重なって取られたもの。ただ、次はそういったミスが命取りになると思うので、ミスへの意識、ミスした後の反応に最善の注意を払わなければいけない。みんなで古島のようなプレーをしようと言っていたところは、まだまだだったかもしれないけれど、今日勝って古島にもう一度チャンスを与えることができたのは本当によかった。権丈もしっかりとプレーしてくれた。今日の試合で昨年のあの不甲斐なさ、悔しさは乗り越えられたと思う。後半もしっかりディフェンスして、先に取ってもまだまだだってみんなで声を掛けて、大東のときのように攻められても受けるのではなくて、こうしようああしようとすることができた。そこはレベルアップできたところ。今日は最後の何分か抜けてしまったところがあったので、そこは意識してもう一度やり直す。この一週間気合を入れて、集中したいい練習をしたい。関東は必ずいいチームを作って決勝まで来ると思っていた。自分としては、その前までにいかにひとつひとつレベルアップできるかだけを考えてやってきたから、ついにここまで辿り着いた、やっと昨年の借りを返すところまで来たなという感じ。決勝は4年だけでなく、みんなの力の集大成。そこでどれだけやれるかです」
<対関東学院に万全を期す副将・桑江崇行>
「今日は相手が下に入ってきて、プレッシャーの懸かるなか、70点くらいのモールが組めてよかったと思う。最初はモールで取るという想定どおりにできた。ディフェンスでボールに絡んでテンポを遅らせる、アタックはFWで拘ってプレッシャーを懸ける、やりたいことができた前半だった。ただ、自分のプレーは相当ヘボヘボ。危うく交替させられるところだったですし…。スクラムは初めはどうなるかと思ったけれど、3人がうまく対応して途中からはいいスクラムが組めた。この1週間は決勝のことだけを考えていきたい。相手は望みどおり。決勝は関東じゃないと燃えないですから。関東はラインアウトにしても、ワセダに対して相当対策を立ててくると思うので、その上をいきたいです。今日は古島のためにみんながんばれた。これでお膳立てはバッチリです」
<清宮監督も絶賛 この1年の成長を見せ付けた副将・後藤翔太>
「今日の試合は、んー、どうですかね、BKのラインの深さとかはだいぶよかったかなと。最後のところでのミス、パスがうまくいかないようなところも確かにあったけれど、それも成功につながるミスだったと思う。しっかりとステップアップできている、段階を踏んでいるという感触を持つことができた。自分のプレーに関してはまぁまぁ。清宮さんは誉めてくれたんですか?どうしたんでしょう、急に(笑)。BKのディフェンスは、前に出ようという意識は最後まであったけれど、相手の個が強く、食い込まれて継続されるところがあった。その点は反省しなくてはいけないけれど、ディフェンスは総じて意識高くできたと思う。準決勝でのワセダ史上2位の得点だったみたいですし、いい試合だったのかなと。ちょっとFWに拘りすぎたところはあるけれど、ゲームコントロールもうまくできた。あとは切るべきところで切れなかったところを修正していきたい。自分自身は満身創痍で、いかにケガしたところを気にせずにやれるかって感じだったけれど、今日はそれを乗り越えられたし、チームとしては昨年のあの試合を乗り越えられた。トライを取られそうになったところでは、あの光景がフラッシュバックしてきたけれど、今日はみんな切れないで集中できていたと思う。もうここまで来たら強い方が勝つだけ。その瞬間瞬間を必死にプレーして、最後の80分を満喫したいです。自分たちのこの1年を証明する唯一の舞台、成長した姿を見せます」
<自身の不出来にガックリと肩を落とすNO8佐々木隆道>
「僕は何もしてないです、今日は…。ファーストタックルが甘いところはあったけれど、チームとしては意図したとおりにトライが取れてよかったのかなと。今日も前の試合より確実によくなっている。階段をひとつずつ着実に登って、やっとここまで来た。自分はとにかく最悪。ディフェンスも不満だし、アタックも何もしないでただ走っているだけだった。ただ、昨年のあの不甲斐なさ、悔しさはチームとして乗り越えることができたと思う。ここまで来たらもうやるしかない。やっと関東にリベンジするときが来た。2年分の想いすべてをぶつけます。また古島さんと一緒にプレーできることをすごく幸せに思いますし、古島さんがいないときの自分の力のなさを今日は改めて感じました…」
<念願の大舞台を満喫したWTB首藤甲子郎>
「今日は本当に楽しかった。自分のプレーは最初だけでしたけど、キックオフからのプレーは言われてきたことができたし、トライも狙ってきたとおり取れたし、練習してきたことがしっかりと出せて、その点はよかったかなと。ディフェンスも毎度のことながら僕以外はみんなしっかりと前に出れていたと思う。ただ、1人目がしっかりとタックルできずに、ズラされて繋がれたのは決勝への課題。その辺はもっとしっかりとしていきたい。相手のBKは相変わらず能力が高かったし、強かった。自分のプレーはまだまだ満足できないけれど、だいぶ感覚は戻ってきたという感じ。決勝はいい形で望めると思う。やっぱり選手権は特別なもの。今年は優勝できるチャンスだし、そこに立てることにすごく幸せを感じる。竜彦さんにも来年はそこにいろと言われましたし、昨年は本当に悔しかったですから。今年こそは決勝の舞台に立ちたいと思ってずっとやってきた。かなりいいイメージができつつあるし、今日もその一端を出すことができた。マジでついに来たぞという感じです」
<先輩・古島直の想いを背負い奮闘したフランカー・権丈太郎>
「今日は古島さんがいつもどんなプレーをしているかをイメージしたけれど、やっぱり自分には古島さんの代わりはできないから、らしさをだそうと考えていた。試合前古島さんに任せたぞって言われて熱くなったというか、もうやるしかないって。その言葉のおかげで緊張せずに試合に臨めた。ただ、自分のディフェンスミスから相手にチャンスを与えてしまっていたので、プレーは反省ばかり…。古島さんにはがんばりましたって、ただそう言うだけです。チームとしては、清宮さんにFWを前面に出していけと言われたようにできたと思う。自分としてはコンタクト負けもそれほどなく、今日の試合は自信にはなったけれど、まだまだ組織のなかで動けていないので、そこは反省して、もっともっと高みを目指していきたいです。僕もまだスタメンで試合に出ることを諦めていないので、1日1日勝負して、優勝へ向け突き進むだけ。今日は五郎丸が試合中ずっとがんばるぞと言ってくれて、がんばることができた」