メイジはやっぱりメイジだった。紫紺の誇りは失われてはいなかった。久々に味わう『重戦車』の恐怖…。末代まで語り継がれるであろう歴史的敗戦…。「史上最低」、「前代未聞」、そう評され、世間の関心から消えていた『早明戦』は、ワセダにとって、『豊田組』にとって、生涯忘れることのできないものになった。再度繰り返された失態、全ワセダラガーが悲しみに暮れた1日―
この試合、中竹監督が掲げたテーマは『挑戦者』。かつてない、誰もが無関心を装う特殊な状況で本気になれるか、リアルに失うものなきメイジを相手に、自分たちを出せるのか。「ワセダはいつでもチャレンジャー。それが先輩たちから教えてきてもらったこと。ここでチャレンジしてこそワセダ。厳しい視線で見ていて欲しい…」(主将・豊田将万)。しかし…、そんな決意、仲間たちとの約束とは裏腹に、メイジの方がはるかにひたむき、はるかにチャレンジャー、その魂をこれでもかと見せ付けられた。
開始僅か25秒に訪れたファーストスクラムでいきなりのペナルティ、直後に中途半端なキックを豪快に切り返され一瞬にしてゴール前。何の迷いもなく、ただひたすらに『前へ』へのメイジ。それを無抵抗で受け続けるワセダ。何とかごまかしごまかし、体裁を保ってはいたものの、ほぼすべての局面を制圧されては、勝てるはずもなかった。タックルに入れる人間は片手で数える程度、ちょっとフェーズが重なると穴たくさん、正面から体を当てにいくシーン皆無…。熱さなし…、魂の欠片もなし…。これが本当に『早明戦』を戦うワセダ??
そしてこの日の敗北を象徴していたのが、生命線・ブレイクダウンでの走り負け、力負け。メイジが文字どおり、捨て身でなりふり構わずボールを殺す → ワセダ球出しに時間が掛かる → ディフェンスが順目にびっしり広がる → 状況の変化に対応できず、まんまのアタックでディフェンス網にカモられる。80分この繰り返し。まず根本を辿れば、1対1で簡単に倒される。そして、意識が異常に高かった(特に順目セット、対戦したなかで1番?)とは言え、2人目、3人目が走り負ける。相手が執拗にボールを殺してくる『早明戦』はここ数年でも幾度となく経験した(『清宮ワセダ』初期等々)。似たような状況は過去にもあった。しかし、先輩たちは苦しみながらも、それを確固たる意志で剥がし、進むべき道を自らの力で切り拓いてきた。それが『ULTIMATE CRUSH』の根源。敬愛する大先輩・奥克彦さんに黙祷を捧げ臨んだこの日のワセダには、その精神、情熱、受け継がれてきた意志を体現する選手はいなかった。「ツメの甘さ。自分たち、弱いなって…」(主将・豊田将万)。
22-24。猛追のなかに「らしさ」は少し垣間見せたものの、勝負には負けるべくして負けた。最後の最後、コンバージョンがポストに弾かれたのは、「今日、君たちは負けるべき」と言われてるかのようだった。創造性なきアタック、ゆる~いタックル、動き出し、ブレイクダウンスキル…。この日の負けは、「気持ち」だけでは絶対に片付けられない。この土壇場に来て、あまりにも大きな一敗。輝きを放つはずの12月の第一週、アカクロには多くのモノが欠けていた。ワセダでプレーすることの意味、虎肉を喰らってからの90年、培ってきたワセダらしさとは…。ついに来た崖っぷち。もう後はない。3度目の正直か、2度あることは3度あるか。大学選手権は自身、そして自信との戦い。「とにかく落ち込んでいる暇はないです…」(主将・豊田将万)。『豊田組』、ここからは『Dramatic Challenge』―
<改めて『早明戦』の怖さを口にする中竹監督>
「今日は何が起きるか分からない早明戦を体験しました。試合前からそのことは言ってきて、挑戦者になろうと言ってきたけれど、その点からもメイジは本当の挑戦者だった。最初の勢いが80分、最後までもったメイジからは学ぶべきところがたくさんある。帝京戦で見えた課題が今日も見えたと感じるかもしれないですけど、今日はやられ方が違う。新たな課題が見えたという試合。(後半のように前半からもっと回すべきだったのではの問いに)根本はエリアを取って敵陣~と考えていたけれど、思ったより取られ、逆転するために回すという選択になった。新たな課題というのは、ブレイクダウン周り。どうやったらワセダが崩れるのか、今のルールだとどう崩れるのかが見えた試合だった。そういうシーンが今日は多かったなと。あとはビッグゲームで、相手が本気で来たことで起こるミス。メイジにとっては素晴らしいゲームだったと思う。FW対FW、BKに対するFWのディフェンス。1:1でワセダのBKを止めるFWがたくさんいた。メイジにしてみれば、勝つべくして勝った試合。(メイジに対するギャップはちょっとあったということかの問いに)ちょっとどころではなくて、まったく別チームだと感じた。今後へ向けては、まずディフェンスをきっちりやる。そこをしっかり考えてやれば、みんな意識は上がるだろうけど、やっぱりプレッシャーのなかでいかに精度の高いアタック、ディフェンスができるか。今日は精度の低さが見えた。その部分を上げていかないと、勝つことはできない。試合後、学生に対しても、選手権に向けての言葉をかけた。メイジは素晴らしかったし、今日の試合は今後へのヒントがたくさんあった。週明けからの計画はこれまでと変わらない。まずジュニア選手権の決勝。今日は改めて、早明戦というものを思い知らされました」
<崖っぷち… 至るところで甘さを痛感する主将・豊田将万>
「今日は見たことのないメイジの強さがやってきてビックリしました。ワセダには普段は起きないようなミスがでて、普段は抜かれないところを抜かれてしまっていた。今日はメイジにビックリしたというのもありますし、あとはルールの解釈の部分も…。(前半ゴール前でPGを狙う選択肢はなかったかの問いに)あのゴール前ではなかったです。メイジはスクラムでくるチーム。その相手に対して、スクラムで上回ろうという考えでした。まだ前半でしたし、まずやれることをやってみようと。(ルールの解釈についての再度の問いに)それは…、まぁ僕たちの思っていたのとは違っていたということです。(ハーフタイムはどんな状況、どんなことを言ったのかの問いに)話していたことは戦術的なことがほとんどだったので、ここではあまり話したくありません…。基本的には、ディフェンスからいこうということと、あとはブレイクダウンを有利に運ぶための話でした<以上、記者会見>。今日の試合は…、何でしょう…、今は何と言っていいか分からないですけど、とにかく落ち込んでいる暇はないです…。自分たちには足りないところが多過ぎると実感できたので、それをひとつひとつクリアしていくしかありません。1番はブレイクダウン。相手にペナルティさせないくらい、圧倒的にやらなくてはいけないと、改めて思いました。会見でも言ったように、普段はしないようなところでミスをしたり、普段は何気なくできていることができなかったり、それらが積み重なって、自分たちは弱いなと…。ツメの甘さです。課題にしてきたショードサイドディフェンスに関しても、今日は全然ダメ。まだまだです。メイジのディフェンス自体にプレッシャーはなかったと思いますけど、セットがすごく早くて、穴がありませんでした。それに対してワセダは攻める術がなかった。キャプテンの杉本には…、これだったら選手権余裕で出られたのにと言いました。向こうもそうだよなって。逆に大学選手権がんばれよと言ってくれました。情けない話ですけど…。今日は挑戦をテーマに掲げ戦いましたけど、見せ付けられたというか、メイジの方がチャレンジャーでした。週明けからはまずジュニア選手権。Bのメンバーはすごくがんばってくれているので、慶應を全員で倒す。そしてもう1回、大学選手権に向けてやり直していきます」
<ラグビー=スクラム 敗北を淡々と振り返る副将・瀧澤直>
「相手が最後の試合に懸けてくることは分かってましたけど、そこでやり返すことができなかったです…。その気持ちの部分…、気持ちと言ってしまったら簡単なんですけど、相手の勢いに対しやり返すことができませんでした。スクラムのいきなりのペナルティに関しては、正直取られることもあるかなって。ある程度は自分でも自覚しているつもりです。今日はペナルティどうこうより、スクラム自体、もうちょっとレベルアップする必要があると感じました。でも、まったくダメだったという訳ではないですし、スクラムに関して言えば、小さな手応えと課題が見えた試合です。レフリーの桜岡さんも言われていたように、僕側と相手の3番側が同じ方向に押しているのでああいう風に流れる。あの方向にスクラムがいくのは当然です…。相手ボールも押すつもりでやってましたけど、結局やりたいようにスクラムアタックを許してしまって、そこは完全に僕たちの負けでした。近場についても、止めているところもありましたけど、一度行かれだすと、それが連続して向こうは流れに乗る。ゲインされたあとのところがよくなかったです。メイジはブレイクダウンに人数を掛けてきたイメージはないですけど、正直反則覚悟で球出しを遅らせにきてると感じました。寝て仕掛けて、その間にディフェンスが広がる。ワセダは球を出すのに時間が掛かる。メイジがペナルティも覚悟くらいの気持ちできていたのは間違いないと思いますけど、そこでやりたいようにやらせないのがFWの仕事。その点からもワセダとしては全然ダメでした。選手権に向けては、今はあまり考えられないですけど…、このまま負けっぱなしで終るわけにはいかないですし、次からは負けたらもう本当にそこで終わり。春の慶應戦、この間の帝京戦でも同じことを言ってますけど…、このまま負け慣れてしまったらワセダではなくなってしまうので、ひとつひとつ、引退の懸かった試合だという意識を持ってやっていくしかないです」
<責任痛感… 自らのプレーを悔やむ副将・長尾岳人>
「何て言うんでしょう…、今日は個人的には裏に出るのに必死で、ボールを落としてしまったり、攻撃のリズムを作るべきところを止めてしまっていたなと…。フェーズになると、僕の行くところのディフェンスは厚かったです。それでも僕が前に出ないといけなかったんですけど…。1次できれいな球が出ず、2次で詰まっているところで同じムーブをして、渉太が狙われたり、球出しが遅れたところを冷静に対応することができませんでした。ディフェンスに関しては、FWとBKの間をいかれてしまってたので、そこはもう一度やり直しです。ディフェンスでひとりひとりが喰い込まれて、ラインが下がったところを突かれる、そしてペナルティも多くて…。すぐ大学選手権が始まりますし、落ち込んでいる場合ではないです。すべては『荒ぶる』を取るためにやってきましたし、そこに向け突き進んでいくことだけを考えて、練習からまたやっていきます」
<今一度生命線… ブレイクダウンの更なる激しさを誓うロック橋本樹>
「今の自分の感じとしては、あまり言葉になりません…。メイジのディフェンスは、タックルもいいのがきてましたけど、その後のボールへの絡み、球出しを遅くする動作、それに対してワセダがしっかりスイープできず、そこでリズムが崩れてしまいました。反則に近いプレーも見受けられましたけど、実際には取られてないわけですし、そこをはがすことができなかったのは僕たちが力不足だったということです。その部分をもっとしっかり、やるべきことをやっていかないとダメだと感じています。今日はボールキャリアがどうこうよりも、倒れたあとのところ。ロングゲインはそう何回もできるわけではないので、ブレイクダウン。そのスイープだったと思います。ショートサイドディフェンスも、止めきれず、相手の一番勢いのでるところでやられてしまったのは、課題が残りました。選手権に向けては、色々とあると思いますけど、それをしっかりと受け止めて、時間がないなかでいかにやっていくか。とにかく『荒ぶる』を取るしかない。開き直る、迷ってはいられません」
<今こそ真価を!スクラムでの反省を口にし前を向くプロップ山下高範>
「今日は死にもの狂いできたメイジさんに対して、FWが受けてしまい、好きなようにやらせてしまいました。スクラムは事前にレフリーから落ちたらペナルティを取るよと言われていたので…。相手との兼ね合いもあるんでしょうけど、いきなりこちらのペナルティを取られて、ディスアドバンテージになったかもしれません。相手の3番がすごく内にきたことで、スクラムが流れてしまいました。ヒットで勝ててないから好きにさせてしまう。まずヒットでしっかり当たることだと思います。前半のスクラム選択も流れてしまって球が出てしまった。相手がセットという声を組む前に出すんですけど、それにつられて反応してしまい、いいヒットができない面もありました。そして、横に流れる。ブレイクダウンに関しては、メイジさんはボールを守ろう守ろうという意識があって、意図したスローテンポ、スローテンポでハマってしまったなと。今日はやりたいようにやられてしまった感じです。セービングによく行っていたのは…、イーブンボールを支配しろと中竹さんにも試合前言われていたので。誰よりも行ってやろうって。選手権に向けては…、今日はスクラム、FWのところがよくなかったですけど、ここからは負けたら終り。下を向かずに、修正点、課題をしっかり分析して、みんなで冷静に話をして、乗り越えていきたいと思います」
<『早明戦』、実に9年ぶりの敗戦>