そこには大きな大きな喜びが待っていた―。自分のため、仲間のため、小塩のため、そして何よりワセダとしての誇りに懸けて…。『Dramatic Challenge』第一章。苦しみ、もがき、それでも芯だけは失わなかった『豊田組』セカンドチームは、実にワセダらしく、一足先にその栄冠を掴み取った。ジュニアを制する年は、選手権も制す!この日はワセダの運命を左右する戦い!「みんなに話したのは、ワセダの誇りについて。どんな状況でもワセダは弱気な顔を見せない。その90年で培ってきた伝統、ワセダの強さが少しずつ薄れている気がしていたので。今日はみんなで勝ちに拘った結果です」(ゲームキャプテン・塚原一喜)。
この1年はもちろん、この1週間だけでも様々なドラマがあった。普通では「ありえない」、BKに週中ふたりのケガ人、ここまでチームを引っ張ってきた小塩康祐初のメンバー落ち。「誰が出るのか、その部分でみんなの思いが交差した…」(中竹監督)。「週頭から、みんなで色々な話をして…」(塚原一喜)。本当に戦えるのか…。土壇場に来た逆境…。しかし、試合前のアップを見守りながら号泣する小塩康祐の姿を見て、メンバーの覚悟は定まった。
その気持ちの高ぶりを表現するかのように、ワセダは前半からハイパフォーマンス(除:最初の15分)。PGで先制を許して迎えた16分、ラインアウトからの流れるようなアタックでWTB大島佐利がディフェンスを突き破ると、20分にはカウンターからの揺さぶり、31分にはディフェンスターンオーバー → ペナルティからのハリーと、怒涛のラッシュ。終了間際にも、井口剛志、土屋鷹一郎(岩井とともにこの日は抜群!)の1年生コンビが見事な嗅覚を見せ、24-3と慶應を圧倒した。前に出る意志あり、躍動感あり、何よりBKのタックルよし。そこには久々にワセダの形が凝縮されていた。
ファイナルであることを考えれば、ほぼ完璧な40分。このまま行けばビッグスコアで歓喜の瞬間…。しかし、これが今年のワセダ、今のワセダの危うさか、ファーストプレーでフワッと軽いプレーを見せると、状況は一変した。フェアキャッチからの中途半端なキックに始まり(しかもハリーで。そこからハイパンをふたりでこぼし、相手の胸にスッポリ…)、チャージ、ダイレクト、どう考えてもいらないペナルティと「???」の連続。何かに取りつかれているかのような「自滅」以外の何ものでもない戦いぶりで、気づけばリードは4点にまで縮まった。キックパスのバウンドひとつ取っても、試合の流れは完全に慶應。頭をよぎる嫌な予感…。
しかし、浮き足立つワセダのなかで、ひとり冷静に試合を達観し、かつ楽しんでいる男がいた。ケガもあり、しばし潜伏を続けていた井口剛志。後半12分、それまで抜群の輝きを見せていたWTBからFBに入ると、今度はその存在感が倍増。タイガー軍団・入魂のハイパントも難なく処理し、切るべきところではきっちりとゲームを切る。そして的確な声で仲間を鼓舞し、常に正しい方向へとチームを導く。苦しい場面を凌ぎ、再び相手を突き放すことができたのは、井口剛志の存在があればこそだった。ルーキーでこんな芸当ができるのは、あの佐々木隆道以来か…。試合後のコメントがまた泣かせる(実際本人も泣いてましたが…)。「ハートは熱く、頭は冷静に。自分は点差を詰められれば詰められるほどテンションが上がっていく方なんです。常にピンチじゃないだろと思ってやってます。そこで逆に奪い返すことができたら相手は気落ちしますし、チャンスだろと。なので、今日も外からみんなを鼓舞し続けたつもりです。今日はワセダというものをすごく感じました…」(井口剛志)。これぞワセダ。その伝統を受け継ぐ者がここにいた。
全員がひとつになり掴んだ歓喜のとき。そこでは再び小塩康祐が泣いていた。それを見た誰しもが笑顔になった。チーム全体が勇気をもらった。ジュニア選手権を制するのはこの7年間で6回目、うち5度は勢いに乗りそのまま『荒ぶる』。これで臨戦態勢は整った。その足を一歩前へと踏み出した。しかし、未だワセダが崖っぷちにいることに変わりはなし。ここからが生きるか死ぬかの本当の『バトル』。大切なのは「らしさ」、ワセダはかくあるべしの部分。この日のワセダにはAチームが失いかけている芯があった。ワセダが培ってきたもの、誇りを絶対に忘れるな。そして全員で、もっともっと大きな歓喜を。90thメモリアル、『豊田組』には果たすべき使命がある―
<学生たちへの誇りを口にする中竹監督>
「まぁ、勝つことがすべてです。振り返ると、ここまで色々なドラマがあったなと。1番はメンバー。決勝に誰が出るかというところで、みんなの思いが一番交錯した。その週でBKフロントスリーのうち2人がいなくなるのはありえないことだし、これまで春からずっとチームを引っ張ってきた小塩が初めてチームを離れた。こうやって下から這い上がってきた人間と、上から落ちてきた人間が一緒にもがいて掴んだ勝利。これはチームに大きな影響があると思うし、こうして結果を残してくれた学生たちを誇りに思う。勝った、負けたは拘りの勝負。ワセダはディフェンス、タックル。そこで勝つんだと。今日試合に勝てたということは、その拘りで上回ったということ。ムダな反則があったり、色々とあるけれど、今日は勝てたのでとりあえずはよしとします。いよいよ選手権に向かっていくけれど、勝つために必要なこと、肝になるところは、AもBも下のチームも変わらない。今日は改めて、気をつけるべきところがよく分かった。勝って反省して、チーム全体として関東に向かっていく。もうあと一戦だけだという気持ちで、先を考えずに、関東にすべて集中です。関東は自分にとってもやっぱり特別な相手。2年前のことは強烈に頭にあるし、昨年はお互いに悔しさがある。20日はお互いこれまでにない戦いを見せられたらと思っています」
<ワセダの誇り!見事にチームをまとめあげたゲームキャプテン塚原一喜>
「今日は勝つことが最低限の仕事だと思っていたのでよかったです。『荒ぶる』を獲っている年は全部ジュニアも獲っている。ここでもし負けてしまったら、メイジ戦もあって、すべてが沈んでしまうと思ってました。今日は勝ちに拘っての結果。勝ててよかったです。ただ、勝ちに拘った結果、小塩が下のチームに落ちてしまって、週の頭にはみんなで色々話をしました。今日はもう小塩がアップのときから号泣していて、小塩のためにも絶対勝つんだって。試合後、勝って泣いている小塩を見て、自分もうるっときました。Bチームがここまでこれたのは小塩のおかげですから。もっと僕らが強ければ小塩とも一緒に戦えていたとも思うんですけど…、そこはまだ終りではないので。1月10日までAの人間とひとりひとりが勝負。僕たちはまだまだ成長します。昨日のミーティングからみんなには、ワセダの誇りについて話してました。どんな状況でもワセダは弱気な顔を見せない。その90年で培ってきた伝統、ワセダの強さが少しずつ薄れている気がしていたので。後半、いくら苦しくてもやってきたことを信じて戦った結果、あのトライに繋がったんだと思います。もちろん反省点も色々ありますけど、今日に限っては勝ってよかったです。後半の初めのところ、あのトライ(僅か56秒…)だけ。あそこでしっかりできていれば、前半と同じくらいいけていただろうなと。そこはAも含めてずっと課題。まだまだ自分たちは弱いということです。今日勝つことができたのはタックル。特に前半のBKはすごかった。自分たちフロントは前に出てくれたところをオーバーする意識だけ持っていればよかった。やっぱりワセダはディフェンスです。これからは大学選手権一本ですけど、Aが強くなるためにはBの力も絶対必要。ここで止まってしまったら、Aも止まってしまう。みんなで切磋琢磨して、勝負して、1月10日に『荒ぶる』を取れるチームになります!」
<喜び爆発!その声でチームを鼓舞し続けたSH清水智文>
「試合の内容は正直よくなかったですけど、1番は勝つこと。それが大事だったので、今日はよかったです。やっぱり僕にできるのは、みんなの気持ちを盛り上げていくことだけ。今日も試合に出るとき、みんなを笑顔にしようと思ってました。あのジャッカル(勝負を決めました!)は…、最近得意というか、自信を持っているプレーです。狙ってました。僕が入ったときは4点差で、みんな焦っているような顔をしていたので、とにかくそれを何とかしようと。今日はこれまでチームを引っ張ってきた小塩、他の出られない4年の分も自分たちがやるんだという気持ちが強かったですし、絶対に勝つと。小塩とは話はしてないですけど、抱き合って、ありがとうって言ってくれて、あの瞬間はホント嬉しかったです。今日負けたらワセダは終わりだという意識でした。これで勢いに乗る。そして自分も貪欲に、ワセダの4年のSHとしての責任を果たして、上を目指してやっていきます」
<本日の『Dynamic Challenger』!ひとり別次元でプレーした井口剛志>
「もう今日は80分楽しめたと思うので、よかったです。ワセダというものをすごく感じての試合でした。ホントにゴールを背にしたらワセダは強い。そこに不安はなかったですし、タックルからリズムを作っている点はワセダだなぁって。今日はハートは熱く、頭は冷静に、いい形でプレーできたと思います。全体としては、それぞれ個々が相手を粉砕するというのがテーマだったんですけど、僕としてはチームとして勝ちたかった。そのために外から、後ろからしっかりと声を出して、チームをまとめたつもりです。とにかく今の自分はチームメートの信頼を取り戻さなくてはいけないので…。アップのとき4年生の顔を見たら、こみ上げてくるものがあって、いいモチベーションで臨むことができました。試合については、見て分かるように後半の入り。そこは気持ち。ハーフタイムの時間の使い方をもう少し考える必要があるなと。点差がもう少し詰まっている試合だったら、いかれていたかもしれないので。そこはいい課題です。終始落ち着いてプレーできていた?、まぁ自分は点差を詰められれば詰められるほどテンションが上がっていく方なので。常にピンチじゃないだろと思ってやってます。そこで逆に奪い返すことができたら相手は気落ちしますし、チャンスだろと。なので、今日も外から後ろからみんなを鼓舞し続けたつもりです。今日は100点と言いたいところですけど、後半の頭トライに繋がるタックルミスがあったので、70点くらいで…。今日勝てたことは嬉しいですけど、これで終りではないですし、またすぐに切り替えて、自分はホントにAチームに上がりたいと思っているので、そこだけを目標に毎日勝負していきます」
<超歴史的!メイジとのスクラム練に感じた哲学>
それこそ前代未聞?OBが聞いたら誰もが目を丸くする? この日は朝9時よりあのメイジとスクラム合同練。「絶対に受けてやれ」と言う藤田監督の一言で、歴史的セッションが実現した。
双方軽いアップを済ませたのち、ガチンコのライブスクラムをたっぷりと60分。ワセダは色々と試行錯誤しながら、いい形を見せたり、逆に豪快にその強さを見せ付けられたり…。全体終了後もフロント同士3対3を組み合うなど、ワセダにとっては至極の時間が過ぎていった。
そして何と、3対3でスクラム談義をしているところに、藤田監督がやってきて瀧澤直に直接指導。「チャンピオンになれよ。頼むわ」。時間が経って冷静に振り返っても、それはすごい光景だった。この日はメイジの哲学を素直に、そして存分に感じることができた。4年生を含むAチームメンバーで朝早くから上井草まで出向いてくれたメイジの、私的な練習にまで嫌な顔ひとつせず付き合ってくれたメイジの『男気』に感謝。ワセダのフロント、これでやらなきゃ男じゃない!
<練習後には対面同士こんな光景も… ライバルに最大の感謝!>