午前10時。アップも佳境に入り、徐々に集中を高めていく選手たちの横で、かわいい、かわいい外国人の子供が指を指し、お父さんに聞いていた。「in TV Waseda?」。欲しかったおもちゃを買ってもらったときのようなキラキラした目。常に誰からも見られている、子供たちを裏切るな。4月の風物詩・YCACセブンズで、ワセダは観客の心を動かしかけた。
15人制かのような激しいブレイクダウンと、セブンズ特有の壮絶な駆け引き(相手の竹山、福田、我等がコーチ・羽生憲久は超ハイセンス!)が入り混じったタマリバ戦を、我慢、秘密兵器?・清登明の勤勉さで乗り切ると、チャンピオンシップでは、大会前からの最大ターゲット・リコーへ渾身のチャレンジ。セブンズ日本代表・横山ツインズが立ちはだかろうが、外国人選手が立ちはだかろうが、小手先に走ることなく、真っ向から勝負を挑み、勝利を掴む。2分、瀧澤、5分、瀧澤、7分、井上。両翼に配した大島佐利、瀧澤直を計画的に使い倒したキックオフからの怒涛のラッシュは、まさしく絵に描いたようなものだった。
前半を終わって19-0。美しいアタックはさることながら、前線同様、どこにでも顔を出す清登明(プレー回数の多さ、そのタックルはとにかく秀逸!)を軸にディフェンスも完璧。これはもらった!春先早々から『Explosion』! しかし…、誰もがそう思って臨んだ後半、大きな落とし穴が待っていた。
後半2分、反則の繰り返しとしてシンビンを喰らい、流れを失うと、19-12となって迎えた5分にも同様の行為でまたまたイエロー。さすがに5人対7人では成す術なく19-17。そして1人戻ったラストプレーで悪夢の逆転トライ…。優勝したかのように喜びを爆発させるリコーの横で、赤黒は力なく天を仰いだ。
最後の場面、対横山ツインズ、ここしかないの1対1にもう少しうまく対応できていたら…。そもそもその前、終了のホーンが鳴るなかボールを奪い返したところで、何とかプレーを切れていたら…。さらに根本、シンビンをもらってなかったら…。たしかに後悔の念に苛まれるものの、前者2つはゲーム理解度、ラグビー偏差値を上げるための格好の教材になる、シンビンはトップレフリーのスタンダードを早くもこの時期に体感、学ぶことができたという意味で、非常に有益。「選手たちの成長は素晴らしかった」(セブンズ監督・山本裕司)と言うように、敗戦にもキラリと光るものがたくさんあった。
「in TV Waseda?」。いつまでもこう言ってもらえるようなチームであるために。この日はちょっぴり不発でも…、09`Wasedaは『Explosion』。ここから絶対に変わる!
<選手たちに感謝! その成長に手応えを感じるセブンズ監督・山本裕司>
「ラグビーでは勝って試合に負けた。そういう感じ。ものすごく悔しい。それまではセオリーどおり、完璧にことを運んでいたけれど、あのシンビンで…。ただ、リコーに通用して、完全に圧倒していた選手たちの成長は素晴らしかった。ディフェンスも完璧だったし、これからに必ず繫がる。何より、見ている人たち皆、ワセダの強さに驚いたと思うし、今年のワセダはただでは終わらないというのを見せることができた。試合への持っていき方をはじめとして、自分たちでやっていこうという意思が垣間見えたし、試合中もチャレンジする精神が存分に見られた。今日の負けは、決して後ろ向きな負けではない。今回セブンズメンバーに選ばれた選手も、そうでない選手も、試合に出た選手も、出られなかった選手も、みんなうまくしてあげたいというのがコーチの願い。今日のメンバーは、準備期間、試合を通して、みんな成長したと思う。これからシーズンが始まっていくけれど、やっぱりセブンズに選ばれたメンバーは違うと言われるくらいやって欲しい」
<久々の躍動! 万事に渡り積極性を貫いたセブンズキャプテン・櫻井朋広>
「今日はやってきたことを出せたと思います。試合には負けてしまいましたけど、井上、瀧澤さん、大島…といったメンバーと楽しく試合をすることができました。この負けの悔しさと、セブンズを通して学んだことは、必ずこれからに生かせると思います。リコー戦に関しては、相手の方が上でした。自分たちが見習うべきところがあったので、それを15人制にも生かさなければいけないですし、後輩たちにはいい刺激になったはずです。内容的には、やろうとしたことができたいい試合だったと思います。だからこそ、悔しい。昨年もクボタに3本―0本で折り返して、同じような形で負けてしまった。説明するのが難しいんですけど…、社会人の後半の強さというか、そういったところが差として表れているんだと思います。セブンズの練習を始めたときは、井上任せ、瀧澤さん任せのようなところがありましたけど、清登、内山、西田といった下級生たちもどんどん声を出して、積極的にやってくれるようにやって、本当に楽しかったです。大会のテーマであった、消極的なプレーはしない、積極的にチャレンジするということは、負けてはしまいましたけど、できていたと思います。自分も残された時間はあと1年。まだやりきれていないことがたくさんあるので、何事にも今まで以上に全力で取り込みます」
<今シーズンの秘密兵器? プレー回数の多さで存在感を見せ付けた清登明>
「最後は勝てた試合でした。悔しいです…。ボールキープを主眼に置いてやっていたんですけど、僕のシンビンで苦しくなって、そこからズルズルいってしまって…。シンビンは反則の繰り返しということでした。前半は積極的にできていて、やろうとしていたいい形でしたけど、途中から守ろうとしてしまったのが、ダメだったなと。個人的には、がんばろうと思っていたタックル、ディフェンスのところは、しっかり出せたのかなと思います。フランカーへの転向は、最初裕司さんに言われて、そのあと中竹さんからも話を頂いて、決断しました。最初は迷った部分もありましたけど、最後は裕司さんと色々話をして、やってみようと。まだ試合をしていないので、何とも言えないですけど、楽しいですし、すごくがんばりがいのあるポジションです。中竹さんからも、まずはディフェンスをがんばれと言われているので、上田一貴さんのようなフランカーになれたらと思っています。そして中村と勝負です。中村と張り合うようになれとも言われているので、下からどんどんプレッシャーをかけていこうと思っています」
<がんばれ新入生! 上井草ではただ今ルーキーたちが奮闘中!>
桜満開の聖地・上井草では、4月3日よりスタートした新人練の真っ只中。花園を沸かせたあの選手たちから、受験、浪人生活を乗り越えた無印良品たちまで、40名を越える志高き1年生たちが、入部式を目指し、日々汗と涙?にまみれている。担当の小島コーチは「まだまだ全然ですよ」と言うものの、ガッチリした選手がチラホラ、シャープさ、気合いが光る選手がチラホラ…。試練のときはあと3週間。4月26日のお披露目にご期待ください。
1回戦 対タマリバ 14-7(前半14-7、後半0-0)
トライ:井上2 ゴール:大島2
チャンピオンシップ1回戦 対リコー 19-24(前半19-0、後半0-24)
トライ:瀧澤2、井上 ゴール:大島1、井上1 シンビン:9分清登、12分櫻井