ノーサイドの瞬間、秩父宮を包み込んだ万雷の拍手は何を意味していたのだろうか―。熱く、逞しく、魂の入った黒黄に対する賞賛か。それとも、赤黒よ、この状況でよく引き分けに持ち込んだという労いか。はたまた、近年稀に見る激闘に対する感動か…。<2009年11月23日、第86回早慶戦、20-20> そこには、「勝てなかった」という大きな事実が確かに残った。「自分たちの実力はまだまだだなと。勝ちきれない。慶應の集中力、執着心はすごかった。それを跳ね返す力が、ワセダには必要です」(主将・早田健二)…
この日のワセダは、マッチスローガン『ULTIMATE CRUSH』、シーズンテーマ『Explosion』とは程遠い、不発弾、片肺低空飛行。開始早々の4分、手堅くPGで先制したのも束の間、軽いジャブで放ったロングキックを、いきなりのカウンターで切り返され、バランスを崩すと、そこから苦行のような80分が始まった。11分、ラックの球出しを引っ掛けられたところからPGで3-8。16分、再び大外カウンター&SHの持ち出し→高速アタックに屈して6-13。おまけに23分には、大黒柱・田邊秀樹を失う非常事態。さすがにマズイ…。『早田組』が崩れるときのいつものパターン…。フィールド15人の気持ちとは関係なく、秩父宮の空気は完全に慶應一色だった。「1本目はともかく、2本目もまったく同じ取られ方。そこは3列、CTBでもっと対応しないといけなかった。練習でやってきたことができない。特に意思統一の部分。1つのミスが負けに繋がると全員が意識できなくては、『荒ぶる』など取れないです…」(フランカー中村拓樹)。33分、伝家の宝刀・ハイパントで相手のミスを誘い、一気のラッシュ。前半唯一の「らしい」アタックで、不本意極まりない戦いのなか、何とか同点で折り返した。
「秀樹のいないこの状況。見せ所が来たぞ!『ULTIMATE CRUSH』!」(中竹監督)。しかし…、一旦リセット、頭をクールにして臨んだはずの後半も、フタを開ければ、待ち受けていたのは更なる修羅場。CTB村田大志のスーパーハイパンキャッチ(対面にも勝利?本物であることを証明!)を生かせず、逆にディフェンスで相手を下げた局面で、不用意にトライを許すと、ここからは、久々に対峙する「魂のタックル」、そして己との戦いだった。攻めれども、攻めれども、その都度ミス。やっと崩したと思いきや、えげつない膝下タックル。ゴール前超チャンスでラインアウトスチール。腹を括ったモール勝負も、ありとあらゆる手段で分断され、時間を激しく浪費した。「もっと大外のスペースを攻めればよかった。大事なところでのミスが多い。これが勝ちきれないところです…」(主将・早田健二)。
残り12分、7点差、ゴール前絶好のPGシチュエーションでも、マッチスローガンに吸い寄せられるかのようにスクラム選択→インゴールへ雪崩れ込むもパイルアップ→8単で痛恨のノックオン。これで本当の崖っぷち…。もう後には引けなくなった36分、ようやくSO山中亮平がディフェンスをこじ開け同点に追いつくも、そこに至るまでの過程は、到底満足のいくものではなかった。前半しょっぱなのカウンター2発以外、ほぼ問題なく、細部まで仕込まれた慶應を押さえ込んだディフェンスは及第点。ところが…、9割近く敵陣にいながらスコアを重ねられなかったのは、重く受け止めなければならない現実。「魂のタックル」は確かに見る者の心を揺さぶった。そこには断固たる決意があった。それでも、更にその上を行き、勝利を掴んできたのがワセダの伝統。素晴らしいタックルを乗り越えることにこそ、価値(勝ち)がある。フィールドの15人がトライへのイメージを共有できていたか。正しい道を歩んでいたかどうか。理屈抜きの戦いのなかで、求められる理屈…。『早田組』には、最後のワンピースになるであろう大きな宿題が残された。
激闘を終えた瞬間、誰しもが思ったこと。「もう一度、この素晴らしいライバルと戦いたい。このままでは終われない」。負けなかったことにも、大きな意味アリ。これを機に絶対に成長する、大爆発してみせる。「今日は我々にとって、新たな課題と光をくれた転機となるゲーム」(中竹監督)。俺たちはワセダ。慶應を倒さずに、『荒ぶる』は歌えない―
<ザ・『早慶戦』 新たな課題と光を感じる中竹監督>
「帝京大戦以降、自分たちで反省をして、自分たちでテーマを掲げてやってきて、今日も学生主体で試合に臨みました。バイスキャプテンであり、ゲームコントローラーである田邊が早々に退場し、ミスを連発し、大丈夫かな、今日は逆境で学生たちの底力を見るいい試合だなと。結果、同点だったことは今の力を表していますし、勝負どころでのミス、普段は起きないようなミスを含め、自分たちはまだまだなんだと感じて、次に繋げて欲しいゲームです。(試合前の分析と試合をしてみての感覚について)はじめから慶應はバランスの取れたいいチームだと思っていましたし、実際に想定していたとおりのいいチームでした。(山中投入の意図、指示について)具体的な指示は出していません。自分が決める。俺が行くんだと背中が語っていましたね。FWを、大島を見ているようでしたね(笑)。今日はすべて学生に任せました。分析も相手がやってくるであろうこともすべて学生たちで考える。試合でも普通に戦ってくれたと思います。(山中投入の時間帯について)これだけのファンの方が集まってくれましたので。僕自身も日本代表から帰ってきてどうなっているのか見たくて、あの時間に投入しました <以上、記者会見> この引き分けという結果を受けて、今の自分たちはまだまだ。勝ち切る力がないなと。勝負どころでのミス、それに慶應がしっかりと準備をして、よさをうまく出してきたのに対して、ワセダはそれを止めることができなかった。そういう意味で、こういうゲームになってしまった理由ははっきりしてます。今シーズンは春から本当に色々なことが起きたけれど、このビッグゲームのなかで訪れた危機という意味では、今日がチーム始まって以来一番大きなものだった。普段取られないところでトライを取られ、後半はアンラッキーなところもあって失点。ダメージは大きかったし、ゲームが崩れてもおかしくない展開だった。今日こうして明らかな課題が出て、納得のいかない、不甲斐ない戦いのなか、それでも何とか負けなかったということは前向きに捉えていきたいし、ワセダにはまだまだ伸びシロがある。今日はそれを伸ばさないと、次にはいけないとはっきりと分かった試合。学生たちにはそう伝えました。今日の早慶戦はラグビー人気を復活させるような、見る人にラグビーの魅力、どちらに転ぶが分からないおもしろさを体感してもらうには最高のゲームだったと思います。そして、我々にとっては、新たな課題と光をくれた転機になるゲーム。これから1日1日大切にしていきます」
<『ULTIMATE CRUSH』へ!現状をしっかり見つめる主将・早田健二>
「まず、慶應が早々にカウンターを仕掛けてきたことで、用意したプランが崩され、大外で2本取られてしまったことが、こういったゲームになった要因だと思います。そうしたところで田邊の負傷、ミス連発、ワセダとして精度を上げていこうと言っていたんですが…。負けなくてよかったと感じています。自分たちの力はまだまだなんだと実感させられました。これを機に意識を変えて、ひとつひとつの精度を上げていければいいと思います。(前半途中からの修正はどうしたのかの問いに)ミーティングから選手主導でやってきて、こうなったらここに立ち返ろうという話もしていたので。ディフェンス、ブレイクダウン、激しさ、2人目の寄り、それらを意識して。みんなには、敵陣に行って、自分たちのやりたいディフェンスをすれば負けないと声を掛けてました。相手のディフェンスも前に出てきていたので、ハイパントを上げて、チェイス。まず、そこから崩す。そして、ディフェンスへの拘り。それでも後半、アンラッキーなところもあって、取られてしまい、慶應の集中力の高さを感じました。ワセダはまだまだ集中力が足りないなと。(後半ペナルティの判断について)結果論になりますけど、残り12分のところで狙っておけば4点差になり、その後逆転…。狙っておけばよかったと思っています。これからは周りが何を言おうと、自分で決めます。モールに関しては、前半からいい押しをしていましたし、後半もよかったので、認定トライもあるのかなと思ってました。けど、慶應は集中力がありましたし、ラインアウトを競ってくるのもうまかった。これからは負けられないですし、僕の判断でしっかりとやっていきます。<以上、記者会見> いやぁ、自分たちの実力はまだまだだなと…。田邊が抜けたところでは、何人か浮き足立った奴がいたかもしれないですけど、寛造のFBは練習からやってきましたし、大丈夫だろうと思ってました。ただ、HB団とFWのコミュニケーションがうまくいかないところがあったのは、もったいなかったです。前半の2本のトライは想定外というか、いきなりカウンターに来たことは少し驚きました。そこのチェイスで喰い込まれて、慶應のFWは当然のようにそこに寄ってきて、大外に振られてトライ。あれはよくなかったです…。BKアタックに関しては、大志のところがかなり狙われていました。もっと大外のスペースを攻めればよかった。まだ勝ち切れないなと。大事なところでの精度、ミスの多さ。慶應にはそこに懸ける集中力を感じました。そこはここからもっともっと言い続けて、ミスへの厳しさを求めていかないといけません。これから『ULTIMATE CRUSH』していくには、基本の部分。アタックではボールキャリアがしっかりと強いプレーをして、それをサポートする。ディフェンスは個人のタックルの重要になるので、今一度拘っていきます。慶應はチームのバランスがすごくよかったし、ボールへの執着心がすごかった。ワセダにはそれを跳ね返す激しさが必要だと思います」
<迫る時間! 変わらぬ課題に危機感を募らせる副将・山岸大介>
「ん~、何て言うんでしょう…、想定外のアタックというか、カウンターから大外を崩されてトライ。あまりやっていなかったこととは言え、そこでいつもどおりのディフェンス、やりたいディフェンスができずにトライを取られてしまったのはよくないです。前半の途中から修正はできたと思いますけど、テーマにしていたスタンディング、ハンマーなどは、入りからしっかりやれないとダメですよね…。今日は入りがよくなかったことで、こういう試合になってしまいました。モールは全般いけていたと思いますけど、ラインアウトが取れずにチャンスを潰してしまいましたし、今日はFWのせいです。後半のもっと早い時間に取らなくてはいけませんでした。チャンスはたくさんあったのに、精度が低い。いい形で組めればいけるので、そこに至るまでが課題です。スクラムに関しては、全体としては押されてないですし、ボールも確保できていましたけど、個人としてはイマイチでした…。これは完全に個人の問題なので、修正して、考えていかないといけないです。『ULTIMATE CRUSH』できなかったのは、まずは入りの部分。ディフェンスだけでなく、アタックも。帝京戦から課題が変わっていないので、しっかりやって、変わらないと…。本当に勝ちたかったです。実力はこんなものだと受け止めて、また集中してやっていきます」
<大きな後悔も… これからの明確なイメージを語るロック中田英里>
「今日は引き分けてラッキーだなという思いもあります。やっぱり…、前半の入りで練習してきたことがまったく出ず、慶應にそこを突かれてしまいました。後半はほとんど敵陣にいましたけど、ミスが多く、そこもやっぱり練習中から続いていることで。それがそのまま試合に出た感じです。スクラムは1本フッキングが合わずに取られてしまいましたけど、マイボールはしっかりキープすることができました。ラインアウトは…、ちょっと僕だけの情報でやってしまい…。ここが空いているとか、もっとコミュニケーションを取らなくてはいけなかった。試合が終わってすぐ、そういう話をしました。ここは取れないだろうと思い込んでいたところが実は取れたり、隆平のスローイングの調子は今日はよかったことだったり、そういう話を終わってからするようではダメです。そういったところが、勝負どころで出たんだと思います。接点に関しても、練習から言われていたことそのまま。ずっと同じことを言っているので、もう一度原点に返らないといけないです。モールは押せるイメージがありましたし、相手も反則し続けてくれたので拘りました。ただ、精度が低かったです。時間を捨ててしまいましたし、もっと早い時間帯というより、一発で取らないといけなかった。精度を上げていけば、大きな武器になると分かりましたし、相手が反則をしてきても取り切る実力をつけたいです。今チームで取り組んでいることを完璧にできるようになれば、ブレイクダウンもセットも絶対にいける。日々の練習で100%出せるかが、これからの勝負だと思います」
<多くの学び! 『荒ぶる』へのマストを口にするフランカー中村拓樹>
「中竹さんにも言われていましたけど、早慶戦は実力に関わらず接戦になる。そのなかで、今日は一点差でもいいから勝とうと意識してました。内容としては、やろうとしたことが出せず、チャンスでのミスが多かったです。特に意思統一の部分。こういうひとつのミスが負けに繋がるんだと、全員が意識できないと、これでは『荒ぶる』など取れないです。今日は学ぶことがたくさんあった試合でした。秀樹さんが抜けてコンセンサスが取れなくなるようでは勝つことができない。リーダーではない人間からも、引っ張っていけるように、コンセンサスを取れるようにならないといけないです。前半の1本目は、攻めてこないだろうという思いがありました。ある程度仕方ない部分もありましたけど、2本目もまったく同じ取られ方。そこはバックローとCTBで、もっとしっかり対応しなくてはいけなかったです…。それ以外の部分では、慶應のラインアウトからのアタックも大志がすごくいいタックルで前に出てくれていましたし、セットディフェンスに関しては、よかったと思います。ただ、一次を止めた後のところでは、まだ慶應に思うようなアタックをさせてしまったので、ブレイクダウンでもっとしっかりと絡む、セットを早くする。そういったところを修正していかなくてはいけないです。前半だけで4本くらいターンオーバーできたのはよかったと思いますけど、まだまだ寝込んでくる相手をはがしきれていないですし、SHにもプレッシャーが掛かっているので。もっと越えていく。ビデオを見て、しっかり考えます。今日は学ぶこと、修正しなくてはいけないところがたくさんありました。これから自分たちで話をして、どうするのかしっかり決めて、やっていかないとダメだと思います」
<不完全燃焼… 試合後反省しきりのCTB坂井克行>
「悔しいですね…。今日はどうしても勝ちたかったので。僕個人としては、アタックでもっともっと前に出なくてはいけなかったですし、タックルも外されてしまって、まったくでした…。秀樹さんがいなくなって、パニックになったということはないですけど、BKに関しては、慶應の低いタックルに前に出ることができなかったです。やっていて、崩せるイメージはあったんですけど、抜けそうで抜けない。あと一歩のところで足一本捕まれてしまったり…。CTB同士の対決でも、相手の嫌がることができなかったと思うので、負けです。秀樹さんがいない状況は練習からもあると思ってやってきたので、パニックにはならなかったですけど、自分がキッカーになることは驚きました。練習しておいてよかったです。前半のコンバージョンは、ボールを置いた瞬間、絶対に入ると思いました。これからに向けては、やっぱりタックル、そしてブレイクダウンで圧倒しなくてはいけない。今日もコンタクトでは負けてないですけど、『ULTINATE CRUSH』には程遠いですから。また原点に帰って、タックル、ブレイクダウン、そして僕自身としてはアタックもやっていきたいと思っています」
<桑田真澄氏が観戦!熱きエールに中竹監督も勇気を頂戴!>
「ワセダとしてはミスが多く、思ったようなゲームではないなか、最後にきちっと追いついて、負けなかったところにワセダの執念を感じた、感動したと、桑田さんに言って頂けたことを光栄に思います。同時に、予期せぬケガ人がでたりしたなか、グラウンドの選手たちは今日の段階でのベストを尽くしたのでは?という言葉を頂き、そういった捉え方もあるのかと勇気づけられました。これからも桑田さんの説かれる、見えない力を大事にして、次に向かっていきたいと思います。大学選手権の決勝も見に来てくださるとのことなので、その舞台に立てるよう、そこで勝てるよう、これからがんばっていきます」
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