そこにはものすごい世界が待っていた。ノーサイドの瞬間、全身の力が抜けた。頭が真っ白になった。互いの信念をぶつけ合う大学ラグビーの最高峰・選手権決勝。赤黒と『荒ぶる』がすべてのワセダにとって、それは「絶望」でしかなかった。一生忘れることのできない敗戦。「終わった瞬間は、もう何も感じなかったというか、ホント申し訳ないって…。この感情を言葉にするのは難しいんですけど…」(主将・有田隆平)。
この1年の、4年間のすべてを懸けた試合は、思い描いていた理想郷にはほど遠かった。開始早々、攻め込みながらのペナルティ、SHのダミーモーションで自陣に釘付けにされると、ゴリゴリ&モールにディフェンスを寄せられ、いきなりの失点。絶対に与えたくなかった先制点を許すと、ワセダのよさは片っ端から消されていった。アタックの軸はボールキープ、ヘビー級FWによる近場のゴリゴリ。キックはすべてきっちりとタッチの外へ。ハイパントは100%ツイが撃墜。「ラグビーをさせてもらえなかった。ずっと向こうのペースで、一番怖いパターンに陥って…」(副将・山中亮平)。非日常の連続に制御機能が狂ったか、11分、18分と立て続けにPGを沈められ、帝京相手には余りに大きい11点のリードを奪われた。
それでも今年のスタイル、ワセダのファイナルラグビーをやり通せば問題ない。絶対に逆転できる。誰しもがそう信じた。そう確信を持てるだけのものを築いてきた。しかし…、この試合唯一の想定外と言えたのが、セットプレーの乱れ。ラインアウト獲得率はこれまでのゲームと比べ著しく低下、近年最高の仕上がりと自信を持って臨んだスクラムは、前半終了間際、垣永を襲ったアクシデントが響いたのか、時間の経過とともに崩壊。25分、実に爽快な形でFB井口剛志がディフェンスラインを切り裂くも、起点のブレたアタックは、やることなすことうまくいかなかった。これまで経験したことのないターンオーバーも頻発。「今日はFWとしてセットプレーがすべて。大事なところでのミスであったり、BKに迷惑を懸けてしまった」(ロック中田英里)。「相手どうこうより、ワセダの問題。しんどいときに意思疎通して、しゃべれるか。今はとにかく後悔だけです」(FB井口剛志)。
そして後半に入ると、帝京の「ファイナルラグビー」はさらに加速。ショートサイド→ラック→ふた呼吸置いて→ショートサイド→ラック。覚悟していたとはいえ、まるで蟻地獄。ボールキープの無限ループ。相手のリズムを崩す数少ない手段のひとつ・ブローを繰り出すことなく、コンテストの機会が激減すると、もう成す術はほとんどなかった。「ディフェンス自体は悪くなかったんですけど、結果的にやりたいようにやらせてしまったなと。タックルで一人目は倒せてはいても、あの流れを変えるのは難しいです…。1:1自体は負けていなかったと思います」(フランカー山下昂大)。「ああいった形は想定内ではあったので、帝京さんは準備がよくできていたということ。結果としても、帝京さんが上でした。FW戦に関しても、別にワセダが悪かったわけではありません」(主将・有田隆平)。36分、何とかボールを奪い、WTB中濱寛造がトライを返すも、時すでに…。
この日の帝京には、もしかしたらワセダが持ち合わせていなかったかもしれないファイナリストとしての自信と経験、それに勝つための周到な準備を感じた。ワセダとしては受け入れ難い、けど受け入れなくては敗戦。春から1年間、1:1に拘ってきたのも、タックルに力を割いてきたのも、走りまくってきたのも、極端ともいえるスタイルを貫き通してきたのも、すべては71回1:1で負け、シーズンを終わらされた帝京を倒すため。その最後の舞台での、この結果には涙が出た。すべてが否定されたかのような気さえした。それでも、赤黒は間違いなく80分体を張り続けていた。この1年歩んできた道、営みは正しいものだったと誰しもが思えた。
試合後のロッカールーム。この日成すべきことをすべて終えた有田隆平は、前を向き、力を振り絞るように言葉を発した。「悔いが残るのは結果に対してだけ。残された時間もワセダのラグビーをやりきる。最後まで戦い抜くこと、やり抜くことが、僕の仕事だと思っています」―
<最後まで堂々とチームを率いた主将・有田隆平>
「本日はありがとうございました。ワセダとしては準備してきたことが出せましたし、ひとりひとりが体を張れたと思います。結果はついてきませんでしたが、この一年間やってきたことは間違っていません。それは決勝でもブレていませんでしたし、みんなひとつになれたのはよかったと思います。今日も帝京より走っていましたし、ハイパントを軸にした組み立てもこれまでどおりですし、モールのところもFWは止められていましたし。(ラックでの攻防は既に解消しているようにも見えたが。球を出さないことへの対応はの問いに)レフリーからいかないように止められていたので何もできませんでした。ああいった形は想定内ではあったので、帝京さんは準備がよくできていたということだと思います。結果としても、帝京さんが上でした。FW戦に関しても、別にワセダが悪かったわけではありません。自陣での攻防があれだけあって、すごく辛かったです。ターンオーバーの多さは、ボールを持っているプレーヤーと2人目の寄りではないでしょうか。2人目が遅れた訳ではないですけど、相手がうまかったです。最後のアタックはトライを取りに行くつもりでした。決勝という舞台なので、簡単には抜けないですけど、ひたすら攻めた。そこはワセダのラグビーを貫いただけです。帝京さんの変化は、辻さんの言われたのもそうですし、今日は支配率が相手の方が上でした。少ないチャンスを取りきれなかったことがスコアに反映されたと思います。あとはブレイクダウンの拘りです<以上、記者会見> ノーサイドの瞬間は、もう何も感じなかったというか、ホント申し訳ないなって。この感情を言葉にするのは難しいんですけど…。今日はとにかくボールを持たせてもらえなかったので、まったく自分たちのラグビーを表現できませんでした。ひたすらボールをキープされ続けてしまって、あの流れを変えるのは難しいです。何とかして変えたかったんですけど。やっぱりブレイクダウンのところですかね。そこがすごく強かったです。セットについても、プレッシャーが懸かってました。この一年の取り組みには悔いはありません。あるとすれば、結果を残せなかったということだけです。残された時間は、もうワセダのラグビーをするだけ。このチームで最後までやり通す、戦い抜くのが僕の仕事だと思っています」
<不完全燃焼に言葉を失う副将・山中亮平>
「何と言うか、ラグビーをさせてもらっていない、終わった今も試合をしていないという感覚です…。まだまだ全然疲れていないですし、もう終わりなのかって。今日は完全によさを消されるような戦いをされてしまいました。ずっと向こうのペースで、一番怖いパターンに陥った形。自分たちの流れに持ってこれたのは、ペナルティからの速攻くらいで、ターンオーバーもたくさんされて、帝京の試合でした。SOとして、もっと早いテンポ、ラインアウトなどで早いセットができていればと。あの展開で、あのボールキープを続けられてしまったら、どうしようもないです。相手のディフェンスを固いと感じませんでしたし、ギャップもたくさんあったんですけど…。今は悔しいというより、物足りないという感じです。まだまだ全然やれるのに、やりきれてないなって。残りの時間は、4年生として後輩たちにしっかりと伝えること、何かを残してあげること。それしかないと思うので、最後までやり抜きたいと思います」
<『荒ぶる』の権利を失い呆然のロック中田英里>
「今もよく分からないんですけど、思うことは、もう『荒ぶる』を歌う権利がなくなってしまった。チャレンジすることも、もうないんだなって…。今日はFWとしてセットプレーがすべてです。大事なところでのミスであったり、BKに迷惑を懸けてしまいました。スクラムに関しては、ヒットした瞬間から相手の1番が強くて、内に入られて、上げられてヘッドアップ。対応できずに終わってしまい、悔いが残ります。あのボールキープは、相手も外国人選手であったり、強いキャリアがボールを持ってきたので、なかなかターンオーバーできませんでした。ファイトしたかったんですけど、平林さんにいかないでと言われてしまったので。相手が立っていたらOK、寝ているプレーヤーにはダメだという解釈でした。なかなか思い切りいけませんでした。今日はアタックする時間がほとんどなく、逆に相手にボールを持つ時間を与えすぎてしまったのが敗因です。アタックはできませんでしたが、今年一年拘ってきたディフェンスは出せたと思います。若い前3人は本人たちが一番悔しいでしょうし、これをバネに残された時間をがんばります」
<頂点への険しさを口にするフランカー山下昂大>
「ノーサイドの瞬間は、認めたくないけど、これが実力なんだって…。内容的には、やっぱりペナルティのところとイージーミスだと思います。それで負けました。相手のゴリゴリに対して、ディフェンス自体は悪くなかったんですけど、結果的にやりたいようにやらせてしまったなと。タックルで一人目は倒せていたんですけど、あの流れを変えるのは難しいです…。1:1自体は負けていなかったと思います。ターンオーバーに関しては、FWとして2人目の遅さもありました。ファイナルラグビーに対しての覚悟はできていましたし、そう来ることは分かっていて、我慢と言っていたんですけど…、ペナルティの多さ、ミスが敗因です。残された時間については、帝京が喜んでいる姿を忘れないように、しっかりと焼き付けたので、ワセダはどんなゲームにも負けてはいけないということ、このチームでも優勝できなかったという険しさを常に頭に入れて、ひとつひとつ厳しくやっていきます。今は隆平さんを優勝させてあげられなかったことが、一番悔しいです…」
<自身のプレーチームのデキにただただ後悔のFB井口剛志>
「自分の前半最後のプレーに納得いっていなくて…、ダメなプレーに頭がきて、すごく後悔しています。試合内容的には、相手のスローテンポに付き合って、相手の思うようなラグビーをやられてしまいました。ワセダのラグビーがまったくできず、フラストレーションの溜まるゲーム。まだ頭のなかが整理できていないんですけど…、最後まで流れを変えることができませんでした。アタックに関しては、相手のディフェンスどうこうより、ワセダの問題です。しんどいときに意思疎通して、しゃべれるかだと思います。今はとにかく後悔だけです。すごくよくしてくれた4年生のために、絶対いいプレーをしようと思っていたので…。申し訳ないです。4年生に対しても、ここまでにしてくれた長井さんに対しても…。残された時間については、まだ整理できないですけど、とにかく帝京の喜んでいる姿は目に焼き付けました。今はそれしかできなくて。まだ頭が回らない感じです」
<体を張り続けた学生たちに感謝を述べる辻監督>
「本日はありがとうございました。自分たちの描いていたようなラグビーができず、そういう方向づけができなかった自分の力のなさを感じますし、選手たちには100%の力を出してくれて感謝しています。選手たちは体を張り続けてくれましたし、悔やむことはないです。(ペナルティの多さに関する問いに)レフリーがすべて。ラグビーとはそういうスポーツ。どういうペナルティだったのか見直していないので分からないですけど、それも実力のうちです。自分たちの強みを出せなかった要因は、やっぱり継続のところ。ブレイクダウンのギリギリの攻防で帝京さんが上でした。(対抗戦のときとの違いはの問いに)やはりブレイクダウンの拘りだったと思います」