16年ぶりの新人早明戦での勝利から2週間。5月28日に行われた新人早慶戦、早稲田は慶應にリードされる苦しい展開で7-26で前半を折り返します。後半はモールに活路を見出して反撃。36-40まで追い上げると、ラストプレーで逆転サヨナラトライ。モールから右隅に飛び込んだ途中出場・真田稜大選手を中心に歓喜の輪が生まれます。
試合後、仲間とともに喜びを分かち合いながらも、ゲームキャプテンを務めたFL中島潤一郎選手は複雑な表情を浮かべました。
「うれしい気持ちと素直に喜べない気持ちもあります…。ゲーム内容としては完全に負けていました。モールで得点を稼げたのですが、裏を返せばモール以外は全然ダメだということで反省するところが多いです」
前半からブレイクダウンで劣勢、相手のキックから再三50:22でピンチを迎えるなど自陣で守り続ける苦しい試合展開、4トライを奪われて先行を許します(ハーフタイム終了時7-26)。
後半に入ると2分、7分とタテ続けにモールでインゴールを陥れて射程圏内の9点差に。
「試合前は正直押せるとは思っていなかったのですけど、前半1本目のモールトライでいけるなという感触はありました。そこからどんどん使っていこうと。点を取るならモールしかない、逆にモールを組むためにどれだけ敵陣でできるか、ペナルティを取れるかだと考えました」(中島)
反撃ムードが一気に高まり、押せ押せで猛攻を仕掛けるものの後半17分、ハンドリングエラーから相手にボールを拾われて独走トライ。流れに乗っていた中で、相手の背中が再び遠のく痛恨の失点、円陣でチームメイトの微妙な空気を感じ取った中島選手が切り出します。
「いける!と声をかけ続けました。自分たちがトライを取るイメージというかビジョンが見えていました。敵陣に行ってペナルティを取る、そうすれば時間をかけずにモールでトライを取れると。あの時点で残り15分以上あったので、大丈夫だから焦らずにやろうと言いました。ハーフタイムを19点差で終えた時にも、気持ちが切れた瞬間にこの試合は終わると言っていましたし、あそこでトライを取られても絶対切れちゃいけないと思っていました」
前回の新人早明戦で活躍した野中健吾選手や粟飯原謙選手がAチームに昇格するなど、顔ぶれも変わった1年生チーム。今週の練習ではハンドリングミスが続き、ディフェンスでもコミュニーション不足で大田尾竜彦監督から厳しい指摘が飛ぶ場面も。
木曜の練習後に中島潤一郎選手を中心に緊急ミーティング、2年生や上級生も入るチーム編成の中でも改めて新人戦の意義、誰のための舞台かを確認します。
「1年生が上級生に遠慮している部分があったと思います。新人早明でも粟飯原謙さんとか野中健吾とかに頼っていた部分があったので、自分たちの新人早慶戦なので遠慮なく、積極的に声を出したりとか、自分からボールをもらいにいったりしようということは言いました。いざ、試合になるとみんなエンジンがかかって声も出でいましたね。切り替えられるところはいいところかなと思いますけど、自分的にはもっと練習からやってほしいなと思いました(笑)」
自分たちの新人早慶戦、個々の力で打開できない部分は全員で補う。24-40と16点差で迎えたラスト10分、その形が一枚岩のモールという形になって表れます。
30分、34分とモールを起点にトライを返すと、最後は40分に真田選手のスローイングからモールが前進、その真田選手が再びボールをもらって右隅に飛び込みます。
「まとまってバインドしてしっかり方向を全員で意思統一をして押していく、練習よりも今日のほうがうまくいったので正直驚いています。後半のメンバーであわせたことが本当に数回くらいしかなくて、それなのに(真田選手は)3本ともいいスローをして最後にトライまで取ってくれて、メンタルが強いなと思います」(中島)
新人早明、新人早慶に連勝。1年生同志で格段に進んだお互いの理解について中島選手が話します。
「この前の新人早明の時もそうなのですけど、まわりと信頼関係ができてきて、あいつならやってくれるんじゃないかという部分、お互い信頼しあっている部分が出てきていいチームかなと思います。あと、肝が据わっている人が多いかなと思います(笑)」
前後半あわせて7トライのうち6つの起点がモールで「積極的にそれ(モール)でいこうというよりはそれしかないからという感じ」(中島選手)という形としてはワセダらしからぬ(!?)勝利。
それでも個々で打開できない苦しい状況においての「まとまり」「意思統一」「仲間との信頼関係」…中島選手の言葉に含まれるワードに、1年生の中にも確実にワセダらしさが芽生え始めていることを感じさせる勝利でした。
文・写真=鳥越裕貴