「今日は部員130人全員の力で勝った。本当に勝ててよかった…」。新春の大熱戦。因縁の『早法対決』。『我慢』で掴み取った価値ある勝利に、主将・大田尾は溢れる涙を抑えることができなかった。
重圧を一身に背負ったスキッパーに去来したのは、前日のゲバでの光景。「みんなすごく必死で、熱かった。あの姿に勇気をもらった」…。『決戦』前日に聖地・上井草で繰り広げられた熱き戦い。「これぞワセダ」(清宮監督)と言うべき姿が赤黒に見えない力をもたらした。
プレッシャーを跳ね飛ばすように、会心のロケットスタート。開始早々の2分、自慢のスピードでCTB池上真介(2年)がインゴールへ突き抜けると、16分には『エース』(前日のミーティングで監督自らエースに指名)吉永将宏(4年、WTB)がキレまくるステップでディフェンスを翻弄。これぞ『超高速アタック』。ペナルティーからのハリーで相手を揺さぶり、完全にゲームを掌握した。
「あそこで畳み掛けないといけなかった…」(大田尾)。「肝心なところのミスで、自分たちを苦しめた」(NO8佐々木隆道)…。しかしここからは一転、アタックの稚拙さを露呈。これが若さと言うべきか、チャンスの度にボールを失い、ロングキックに背走した。ツメを欠くもどかしさ…。もたつく間に追いつかれ(後半13分のトライで12-12の同点)、満員の秩父宮は異様な熱気に包まれた。
激しく覇権を争った『早法時代』を思わせる白熱の試合展開。頻発するビッグヒット、瞬時に入れ替わる攻守、ゴール前での脅威の粘り。今シーズン初体験、息詰まるデッドヒートにワセダの集中力は研ぎ澄まされた。
「ディフェンスで集中して、我慢できたのは収穫だった」(大田尾)。スコアが取れなくとも自らを見失うことなく、ひたすら我慢。衰えることのない出足し、スタンドで見守る仲間の強い想い…。辛抱に辛抱を重ねて迎えた後半31分、ついにその時が訪れる。
相手ゴール前でラインアウトのチャンスを得ると、これまでチームを支えてきたFW陣が猛然とプッシュ。「絶対に取る自信があった。もうFWで決めてやろうって」(ロック桑江崇行)。この日一番の『集中』で歓喜のトライ、そして大切な仲間が待ち望んだ勝利を『自らの力』で掴み取った。
自慢のアタックに課題は残したものの、「ディフェンスをあれだけ集中して頑張れたことは評価できる。これで芯が通るでしょう」と、これまでとは違う戦いぶりに清宮監督も手応えを掴んだ様子。「この試合の意味は本当に大きい。次は絶対にいいゲームができる」(大田尾)。ついに覚醒した伝統のメンタルタフネス。これぞ『RAISE UP!』。確かな自信を胸に秘め、『大田尾組』が頂点へと駆け上がる…<早大ラグビー蹴球部広報 疋田拡>
<ディフェンシィブなゲームに満足気な表情を浮かべた清宮監督>
「今日の収穫はディフェンシィブなゲームでタックル、セットを集中してできたこと。ファーストタックルにもきっちり入っていたし、全体としてあれだけ集中して頑張れたのは評価できる。こういった接戦を初めて経験できたのは大きな財産になる。課題はラインブレイクした後のミス。ブレイクダウンではボールキャリアが弱いというか、倒されすぎ。もう少しテクニカルな部分の指導も必要だと感じた。今日は集中ということを学生には言っていたけれど、ディフェンスに一生懸命になり過ぎて、アタックで取りきれなかった。(準決勝の)同大はまったく見ていないので、どんなチームか分からない。これからしっかり見て準備する。春から言っているように、とにかく関東学院しか見ていない。決して抜くとかではなく、課題をひとつひとつ消していって、2度の借りを返したい。これで芯が通るでしょう。池上はよかったね」
<部員130人の勝利 試合後涙を浮かべたキャプテン・大田尾竜彦>
「今日は22人だけではなく、部員130人の勝利。昨日のゲバでみんなすごくいい試合をして、僕たちに勇気をくれたことが勝因。池上がノックオンしなければとか、松本がノックオンしなければとか、抜けたときのフォローできていればとか、たらればを言えばたくさんでてくるけど、それが今のワセダの力ということ。もっと取れたのに、畳み掛けることができなかったのが昨年との違い。池上はノックオンもしたけど、それを帳消しにするだけの働きをしたと思う。外から見ていた時は、何をするにも淡白だなと思っていた。アタックでもすぐに蹴ってしまうし、ディフェンスもゴール前ですぐに取られてしまう。とにかくそういうのをなくそうと。もっともっといけたというのが実感だけど、前の2試合に比べたらいい試合ができたと思う。試合前は正直プレッシャーを感じていた。法政は一番いい状態でワセダはその逆の悪い状態ですから。実際法政の勢いを感じたし、3年前の準決勝で慶應に勝った時みたいな雰囲気があった。最後は確かに苦しかったけれど、余裕もあった。ゴールキックは蹴る前、ボールを置いた瞬間に入ったと思った。一連のタイミングが自分のものだったし、間合いも完璧だった。周りのみんなは分からなかったと思うけど、ポールのど真ん中を通っていった(笑)。ディフェンスで集中してよく我慢できたのは収穫。差は7点しかつけられなかったけれど、こういった接戦は初めてだったし、これで一皮剥けると思う。今日の試合はものすごく大きい。次も絶対にいい試合ができる。今日は部員130人で勝った、本当に価値のある試合だった。国立ではこれがワセダだというラグビーを存分に見せたい。そうすれば自ずと結果はついてくる」
<決勝トライを挙げたロック桑江崇行>
「今日は苦しい試合だった。抜けた場面とか肝心なところでミスがでてしまったのが原因。最後はもうFWで決めてやろうと思っていたので、モールを選択した。絶対に取れる自信があった。ラインアウトは青木がああなってしまったからしょうがない面もある。FWのディフェンスはだいぶよくなってきたと思う。あとはアタックでのブレイクダウンでの意識。そこが変わればもっともっといいチームになれる。ここで楽勝したからといって関東に勝てるという訳ではないけれど、もっとアタックで取らないとダメ。今日はいい試合というよりもギリギリで勝った試合という感じですかね」
<久々に15番を背負った法政キラー・内藤慎平>
「今日は周りからお前は法政に強いと乗せられた(笑)。前半は自分も全然動けてなくて、キックへの対応もちょっとお粗末になってしまった。キックが飛ぶことは初めから分かっていたことだし、関東もあれ位蹴ってくるから、もっときちんと対応しなくてはいけない。どの試合でもそうだけど、接点のところで前に出られないとやっぱり苦しい。敵陣に入ってからのターンオーバー、ここというところでのミスから、大きなキックで下げられてしまったけれど、そんなに崩されている感じはしなかった。ディフェンスもふたりでタックルに入れていたし、問題なかった。ただ、途中で突き放せるチャンスはたくさんあったし、最後は相手もきつかったと思うので、そういったところでもっと優位にたちたかった」
<タックルで奮闘 清宮監督の期待に応えたCTB池上真介>
「試合前はだいぶ緊張した。集中しなくてはと思い、自分の世界に入ろうと思っていたら、みんなすごく声を掛けてくれて、そのおかげでリラックスできた。みんな僕の顔を見てやばいと思ったみたいです(笑)。今日はとにかくタックルとブレイクダウンでの仕事をしっかりしようと思っていた。もうそこだけ。タックルは一発目で入れたので乗っていけた。トライはよかったけれど、その後のノックオンは不服。振り向いてしまったのが悪かった。そのままいけばよかった。反省してます。今思うと夏にコンバートされて、フランカーを経験したのがよかったと思う。スイープに入るとか、そういったところでの意識が変わった。全体としてはいい面もあったけど、ミスもあったし、2回抜かれてしまったし、まだまだ。とにかく今日できなかったことを練習して、次までに修正したい」
<攻守にチームを牽引した負けない男・佐々木隆道>
「今日は苦しかったですね。肝心なところでのミスが多々あって、こういった展開になってしまったけれど、チームの状態としては悪くない。ディフェンスもよくなっているし、ブレイクダウンも動き出している。あとは肝心な部分でのミスだけ。今日もそれがなければ点差も開いた。だいぶタックルにいくようにはなったけれど、その分足が止まったり、いくべきところでいけなかったり、セットできなかったりしてしまった。後藤さんにも言われたけれど、走るべきところ、入るべきところでの意識がまだ低い。次の同大も前半は関東と接っていたみたいだし、気は抜けない。この先チームをどう完成かせるかに重点を置いていきたい。竜彦さんが戻ってきたことで、どう動くとかが明確になったし、意思統一もできてきた。これからもっと精度を高められれば、絶対に優勝できる」
<80分、懸命のプレーを見せたフッカー青木佑輔>
「あの場面(空中でタックルされたシーン)は本当にやばかったです。あの瞬間、世界が違って見えたというか、歪んだ感じ。気合とかそういったことより、とにかくやらないといけないと思って立ち上がった。大舞台ですし。法政のスクラムは強かった。本当はもっとスクラムで崩したかったけれど、思い通りにいかなかった。ピックゴーもいけなかったし、自分のプレーはまったくダメ。情けない。モールはまだまだの部分もあるけれど、ディフェンスはだいぶよくなってきたと思う。ラインアウトも投げづらかったけど、苦しい場面でネガティブにならずにしっかりキープでできた。あと2試合本当に勝ちたい。とにかくどんな形でもいい」