「何としても勝ちたかった相手にようやく勝つことができた。ワセダラグビー全員の思いが実った勝利。奥さんに勝利の報告ができて本当に嬉しい…」(清宮監督)。初対決から52年、すべてを賭けた12度目のチャレンジ。『奥克彦メモリアルマッチ』。誇り高き赤黒軍団、『荒ぶる』ワセダ・『諸岡組』が、悠久のときを超え、その名を歴史に刻み込んだ。2004年9月20日、早大25-9オックスフォード大。「1番勝ちたかったのは奥さんだから…」(清宮監督)
試合前日のミーティーング。いつものように入念にゲームプランを落とし込むと、清宮監督は学生たちへ噛み締めるように語りかけた。「明日はとにかく勝ちたいんだ。頼む、勝たせてくれ。奥さんの墓前に報告に行くことになっているんだ、頼む…」。俺について来い、優勝させてやる―。おまえらが嫌だと言っても、俺はあと2年監督をやる―。これまで強烈なリーダーシップ、強い言葉でチームを率いてきた監督が、初めて見せた学生への懇願。「みんなで歴史に名を刻もう、新しいワセダの歴史を作ろうって話してたんです…」(主将・諸岡省吾)。監督のこの言葉、そして何より奥さんへの熱い思いが、チームWASEDAをひとつにした。
午後2時5分、オックスフォード大先蹴―。試合は序盤から、双方が積み重ねてきた52年の歴史を確認し合うかのような激しい、プライドむき出しの攻防。球際の強さ、したたかさ、そして勝利への意欲。「オックスフォードはやっぱりオックスフォードだった。これが歴史であり、伝統。そう簡単には勝たせてくれない…」(清宮監督)。今シーズン体験したことのないような接点の強さ、イングランドラグビーの歴史・ダークブルーの威光にさらされ、前半は1点のリードを奪うのがやっとだった。
「やりたいことができずに10-9だぞ。いけるだろ、お前ら。勝とうぜ」。迎えた後半、指揮官の熱き思いが結実する。3分、相手のお株を奪うペナルティーゴールで点差を広げると、続く6分には奥さんを直接知る数少ない現役選手、プロップ伊藤雄大の強烈プッシュ、SO安藤栄次の巧みな仕掛け、SH後藤翔太の絶妙な持ち出しが見事にかみ合い、会心のトライ(スコアはロック内橋)をお膳立て。「奥さんは外務省のあんなに偉い人だったのに、こんな自分たちのことを何から何まで気遣ってくれる、本当に優しく、心の大きな人だった…」(伊藤)。ワセダラグビーの真骨頂、機をみるに敏。奥さんへの思いを爆発させるような一気の仕掛けで、悲願の『初勝利』を目の前へと手繰り寄せた。
そして残り30分、ここからが『諸岡組』による、本当の意味での歴史の『創造』。「今日1番評価できるのは最後まで集中力がきれなかったこと」(清宮監督)。「FWが最後までがんばってくれていたし、やられる気はしなかった」(安藤)。ドロップゴールで勝ち越された52年前の初対決、アウェーで喫したまさかの逆転負け、最後の最後で追いつかれた2年前の上井草オープニングマッチ…。これまで幾度となく勝利を手放してきた終盤、土壇場の攻防でも完全に相手を凌駕し、53年目、12度目のチャレンジにしてついに、悠久の歴史を超えた。
『25-9』―。「いつまででもこのスコアを見ていたい…」(清宮監督)。ともすると、大学選手権優勝よりも価値のあるかもしれない、偉大で意味のある歴史的大勝利。奥さん、やっとオックスフォードに勝ちました。オックスフォードの地で奥さんが授けてくれたスローガン・『ULTIMATE CRUSH』はワセダラグビー不変の言葉です。これからも『諸岡組』、そしてワセダを見守っていてください。この日の勝利を奥さんに捧げます…<早大ラグビー蹴球部広報 疋田拡>
<念願の初勝利! またひとつワセダの歴史を塗り替えた清宮監督>
「何としても勝ちたかった相手に、ようやく勝つことができた。オックスフォードが土壇場のところでの接点の強さ、本気になったときの圧力を見せてきたなか、ワセダがそこを凌いでトライを取ったことは評価できる。暑さと芝生の状態、このコンディションで両チームともやろうとしていたパフォーマンスができなかったけれど、意識はお互い高く、いい試合だったと思う。ノーサイドの後は、25-9のスコアをずっと見ていたかった。今日は本当にいい1日になった。学生にはプレスリリースされる前から、この試合が『奥克彦メモリアルマッチ』として行われるという話をして、絶対に勝ちたいんだ、勝たせてくれと言ってきた。チームとして勝っていない事実はもちろん、52年前の初対戦からこれまでに至る経緯、11回の歴史、作り上げてきた伝統、そして何より奥さんなんだと。学生たちも十分にそれを理解してくれて、この試合に臨んでくれた。今日は現役だけでなく、ワセダラグビー全員の思いが実った勝利。本当に勝ててよかった。今日の試合を奥さんが見ていたら、いつもみたいに辛口のコメントだったかもしれませんね。もっとトライが取れただろうし、オックスフォードのFWがディフェンスで我慢しているところでは外が薄くなってくる。そういった大局を見たラグビーができていなかった。でも間違いなくおめでとうと言ってくれたと思う。今日はお互いやりたいことできていないし、ワセダもプレーだけ見ると不出来な部分の方が多かったけれど、1番評価できるのは最後まで気持ちがきれなかったこと。トライを取られそうなピンチも2回くらいしかなかったし、精神力、気持ちで相手に勝っていた。特にBKは全然よくなかった。ラインの深さ、ランニングコース、パスの距離、すべてがそう。まだ見直さなければいけないことがたくさんある。オックスフォードは他の大学がワセダに勝つには大雨になるのを祈るしかないと言っていたみたいですけど、今日のデキなら大雨でもワセダが勝ちますよ(笑)。今日はワセダラグビー全員で掴んだ勝利。至難の業であるけれど、次は敵地でオックスフォードに勝ちたい。今日は本当にいい1日にだった」
<歴史にその名を刻んだ主将・諸岡省吾>
「オックスフォードの監督、選手と試合前に何度かお会いしたとき、FWがチームのウリだと言われて、ワセダもここまでどこにも負けていなかったので、今日は絶対に勝ってやろうと思っていた。FW戦で思うような展開に持ち込めず、苦しかったけれど、今日はBKに助けられた感じです。外国人は絡みが強いし、ワセダの2人目も遅かった。最初はFWで拘って、モールも押していこうと思っていたけれど、相手がうまくてそこで崩すことができなかった。スクラムもマイボールをもっとコントロールできると思って練習したきたし、今日でまだまだだということが分かった。FWがこんなに強い大学は他にいないので、いい経験になった。前半を苦しくしたのは自分たちの反則。ディフェンスで抜かれる心配もなかったし、みんなしっかりアップできていた。気をつけなければいけないのは反則だけだった。今日は全体としてはやりたいことができなかったけれど、集中力がきれなかったのがよかった。練習からそこをずっと意識させてきましたから。この意識でいければ、これからもいい試合ができるという手応えはありますね。今日はやらなきゃいけないという気持ちだったので、時間があっという間に過ぎていった感じです。今日でまだ足りないところが分かったし、追求していかなくてはいけないことがまだまだあるなと。みんなで歴史に名を刻もう、新しいワセダの歴史を作ろうと話してきて、今日はいい集中で試合ができた。とにかく勝てて嬉しいです」
<歴史的勝利にも更なる高みを目指す副将・桑江崇行>
「今日はデキとしてはよくなかった。やるべきことをやって勝ったという試合ではなかった。全然満足できる内容ではないです。ラインアウトもうまく取れたと言えば、取れたけど、試合前からずっと言っていたのに、リフトのサポートがルーズになってしまった。まだ意識が足りないです。ワセダのFWは負けていなかったけれど、向こうがそこまでFWに拘ってきているという感じはなかった。FWに拘ってきたらきつかったかもしれないですね。FWはまだ拘りきれてないし、意識が低い。ただ今日の勝ちは若い奴らの自信になったんじゃないかと思います」
<奥さんとの思い出を胸に秘め勇敢に戦った副将・後藤翔太>
「2002年の英国遠征のとき、ホテルに帰ったら奥さんから留守電が入っていたんですよ。ひとり寂しくホテルにいるとき(他の遠征メンバーが日本に帰国後も、イタリアで行われたU19世界選手権参加のため、後藤ひとりでロンドンのホテルに5日間滞在。とっても寂しかったみたいです…)、飯でも行こうかって。あんなに忙しい方だったのに、こんな僕のことを気にかけてくれていた。けれど、僕がその留守電に気が付くのが遅くて、ご飯に行くことができなかった。それがすごく心残りなんです…。今日は思ったような展開には持ち込めなかったけれど、ディフェンスがよかったと思う。ペナルティーが少し多かったけど、早いセットからよくアップできた。アタックも悪くはなかったけれど、相手のプレッシャーもきつかったし、力自体が強かった。今日はとにかく夢中で、試合中も勝つことしか考えていなかった。今日はこのメンバーで歴史に名を刻むことができてよかったです」
<冷静なゲームメイクで勝利を呼び込んだSO安藤栄次>
「今日は普段であれば手がでてこないようなところで絡まれたりして、思ったような展開に持ち込めなかった。相手のディフェンスが内に寄ってくるので、意図的に外にいこうと考えていたけれど、外にボールを運んだときに球がだせなくて苦しかった。今日の勝因はディフェンス。ディフェンスで割られることがなかったのが1番よかった。FWも最後までがんばってくれていたので、敵陣にいれれば問題ないという感じだった。奥さんは英国遠征のとき、すごく一生懸命僕たちのお世話をしてくれた。スパイクのポイントがダメだと言われたとき(普段使っていたポイントの使用が認められず、一同大慌て。大変でした…)、あちこち奔走して、試合ができるように手配してくれたのがとても印象に残っている。僕たちのお世話を本当によくしてくれた。今シーズンは最後なので、自分のプレーをしっかりして、1試合1試合出し切っていきたいです」
<この2年での成長を実感するNO8佐々木隆道>
「今日は絶対に勝ちたい試合だった。自分がトライしたわけでも、ラストパスしたわけでもないけど、ディフェンスで課題にしていた上でボールを殺すタックルもできたし、相手にも飛ばされることもなかった。今日目標にしていたことは達成できた。2年前の借りは返せましたかね(笑)。1年生のときはボールを持っても振り回されたり、どうしていいか分からなかったけれど、今日はボールを持っても落ち着いてできたし、相手の強さも感じなかったし、その点では自分も成長できたのかなと。試合のデキに満足はしていないけれど、今日はディフェンスがよかったと思う。ゴール前でも集中力がきれることなくできた。ただ、まだ無駄な反則が多いし、ワセダはもっと大人になれるとは思いますね。今日はやってて楽しかったです」
<この日も存在感を見せたフッカー『世界の』青木佑輔>
「今日は相手の接点がものすごく強かった。ラインアウトは空いていると思ったところで競られたり、自分がミスしてしまったけれど、桑江さんがすぐに修正してくれて助かった。今日は順目への走りで相手を上回っていたし、みんなディフェンスで前に出れていたので、やられる感じはまったくしなかった。スクラムは向こうがアーリーヒットしてきて、それを取ってもらえず、うまく組めなかったけれど、あれを全部取っていたら試合にならないとレフリーも判断したんだと思います(オ大の選手曰く、イングランドとレフリーのコールが違うらしいです…)。今日は接点でがんばろうと思っていたけれど、オックスフォードはそこと、モールが強かった。やりがい、ありすぎでしたよ(笑)。ただ、こういう経験をすることでチームが強くなっていくんだと思います。今年の強みはスクラムなり、ラインアウトなり、試合中に修正できること。今日も諸岡さん、伊藤さんと色々話しながらできましたし、うまくいかないときもパニックにならずにしっかりと対応できた。今日でまたチームが成長できたと思います。自分としては1年生の頃のガムシャラさが、最近欠けてきてしまっているので、もっとガムシャラに取り組んでいきたい」
<もうひとつの戦い 夜の日英対抗はドロー?>
グラウンドでの激しい試合はもちろん、ワセダとオックスフォードの間で欠かせないのが、もうひとつの熱き戦い。夜の攻防。この日もフェアウェルパーティー終了後(大会関係者、関東学院大も参加し、オ大の宿泊先、東京ドームホテルにて開催)、戦前の約束どおり、4年生がオックスフォードのみなさんを早大生の聖地?高田馬場へ連れて行きました。
序盤こそ、次々に繰り出される歌の数々、激しい飲みっぷり(ビールはすごいです、ほんと)に圧倒されたものの、最終兵器?日本酒投入すると、ワセダも盛り返し互角の展開!最後はオックスフォード、ワセダ分け隔てなく、みんなで歌を大合唱し(もちろん、英語で)、高田馬場の熱い夜は過ぎていったのでありました。その後宴がどうなったかは…、ご想像にお任せします…。
オックスフォード、ケンブリッジとこんな交流ができるワセダはやっぱり幸せ者です。ワセダでラグビーができる喜びを改めて感じる素敵な1日になりました。
その他の写真はこちらよりご覧頂けます>>