「自分たちからもっと仕掛けろ。キックばかり蹴るな、攻めろ!」(清宮監督)。業を煮やした指揮官から再三発せられた『継続』指令。実働僅か40分―。赤黒予備軍が、清宮ワセダのアイデンティティ・『高速』アタッキングラグビーを思い出し、紫紺の壁をぶち抜いた。
前半は攻める気まるでなし、メイジ相手とは思えない超まったりモード。「BKに積極性が足りず、ボールを散らすアタックができなかった。カウンターもキックばかりになってしまって…」(FB遠藤隆明)。自陣からの勇敢な仕掛けは皆無。キックまたキック。生命線・『継続』、『高速』を失ったワセダがメイジを引き離せる訳もなく、少しのリードも奪えぬまま、前半を折り返した。
「カウンターからも蹴らずに攻めろ!」(清宮監督)。長らく続いた沈黙を打ち破ったのは、前半とは打って変わったカウンターからの積極的な切り返し。8分、それまで見られなかった果敢な走りでゲームを動かすことに成功すると、直後の13分には、同じくキックのそぶりすら見せない『継続』からワセダの闘莉王ことロック寺廻健太が相手を引きずりインゴールへダイブ。試合開始からおよそ1時間―。指揮官の指示を忠実に実行し、積もりに積もったモヤモヤをやっとのことで吹き飛ばした。「後半はよくなったのはカウンターから蹴らずに攻めることができたからです…」(遠藤)。
そして、流れを掴んだこの勝負所で試合を決めたのは信頼感抜群の『エース』豊山寛。7点差のまま迎えた残り20分でフィールドに立つと、それまでチームに欠けていた体を張った堅いディフェンス、タテへの推進力で安定感を投与。これぞ『荒ぶる』メンバーの実力。26分には勝負を決定づけるトライも挙げ(ラインアウトからブラインドに位置したWTB三原拓郎がSOの内を突き相手のウラヘ。これに豊山が抜群の反応を見せた意図どおりのビューティフルトライ!)、際立つ存在感を見せ付けた。
そしてそして、この日も仕上げは『矢富イリュージョン』。分かっていても止められない(相手からはボールを持つたびに自分で来るぞの声が…)。行き着く先はインゴール。「今日は入る前からいける自信、ありましたよ」(矢富)。僅か9分間の出場ながら曲芸をはるかに凌ぐミラクルランを連発し、宿敵にトドメを刺した。
「今日は走り勝った感じ。もっとクイックで攻めたかった…」(遠藤)。『継続』、『高速』、『精確』、『独自性』、『激しさ』、『ULTIMATE』―。やはりワセダにとって大切なのは、根幹を成すビクトリーチェーンの飽くなき追求。それを成し遂げたとき、赤黒予備軍は本物の強さを手に入れる…<早大ラグビー蹴球部広報 疋田拡>
<最後尾からチームを引っ張ったキャプテン遠藤隆明>
「今日はBKに積極性が足りず、ボールを散らすようなアタックができなかった。後半よくなったのは前半と違ってカウンターから攻めることができたから。前半はカウンターもキック、キック、キックみたいになってしまった。FBとしての自分のポジショニングも悪かったし、ブラインドWTBをしっかり下げてあげることができていなかったのは反省点。相手は近場、近場で困ったらキックというのしかなかったので、もっと自分がしっかりと予測して、いいポジショニングをしなくてはいけなかった。ただ攻める意識を持った後半はよかったと思う。今日は走り勝ったという感じ。後半は相手がバテているのがやっていて分かったし、もっとクイックでどんどん攻めたかった。今日は相手がメイジということもあって、点差こそ余りつかなかったけれど、みな最後までしっかりと集中できていたと思う。反省はとにかく前半攻められなかったこと。AとBの違いはコミュニケーションがうまく取れていないことと、チームとしてのディフェンス。今日みたいな試合もAだったらもっと相手を向こうに倒していると思う。キャプテンとして1試合1ビッグヒットということを課しているけれど、機会もなかったし今日は決められなかった。あとはチャンスフェーズでいかにいい仕事をするか。今日は点数は余り取れなかったけれど、ディフェンスでやられている感じはほとんどしなかったです」
<この日も決定的な仕事をした新時代のSH矢富勇毅>
「外から見ているときはもっと内で崩したらいいのになとずっと思っていた。相手はワセダが外に振ってくるのを警戒して、アウトサイドCTBが外で前に出ていたので、最初に内をFWで崩して展開すればよかったんだろうけど、それがうまくいっていなかった。自分が入ったらそこを攻めようと考えていた。最近体の質を変える様なウェイトをやっていて、その効果がだんだんでてきた。強くなったと言うより、体が軽くなった感じ。筋肉の質を軽やかにしようと。夏はここで抜けるというのが分かっていても、体が思うように動かず、スピードが上がらなかったけれど、最近は体も軽くなって、スピードが上がってきた。あとは清宮さんに言われてダイブパスをするようになったこと。ダイブパスを交えることで自分のなかでうまくメリハリをつけられるようになってきた。それで変われているんだと思います。とは言え、翔太さんがとにかくスゴイので、自分はまだまだ。ダイブパスも交えることで、捌きのコツも掴めてきているので、これを逃さずにもっともっと練習してうまくなっていきたいです。当面の目標は翔太さんとの勝負。昨年はリザーブでなかなか出られなかったので、もちろん今年はレギュラーになることが1番の目標ですけど、まずはリザーブでも信頼して使ってもらえるような存在になって、そして最後にはスタメンで出られたらいいなと思います。今日は試合に出る前からいけるなという自信はありました。でもまだミスが多いので、そこを改善してもっとリズムを出せるようにしたいです」
<久々の復帰 ビッグゲームでの爆発を期すWTB首藤甲子郎>
「今日は体が重かったです…。体重を上げているのでしょうがない面もあるんですけど、スピードがまだ戻っていない状態。これからのビッグゲームを目標に上げていって、よりパワーアップしていきたい。とにかく昨年最後の舞台に自分がいられなかったことに対してものすごく悔いが残っている。前半にいくらがんばっても最後にプレーできなければ意味がないので、今年はとにかく最後まで試合に出て、そこで1番いいパフォーマンスができるようにしていきたい。ハンドオフを使わずに相手を抜くという今年のテーマに関しては、まだまだ練習が足りない。だいぶスピードに乗った状態でボールをもらえるようにはなってきたと思うけど、そこはまだまだ。今日は時間も短くて何もできなかったですけど、キックを蹴られるところは見せられたかなと(笑)。大学に入ってから自分のベストのキレ、スピードをまだ見せられていないので、しっかりコンディションを調整してそれを出せるようにしたい。これからのビッグゲームでは生まれ変わった首藤甲子郎をお見せできればと思っています」