「大学選手権連覇、打倒・トップリーグへ向け、ここでの停滞は許されない」(清宮監督)。「いいか、ワセダに『負け』はないんだぞ」(主将・佐々木隆道)―。チームを包み込む極限の緊張感。大学選手権連覇、打倒・トップリーグ、そのために避けては通れない宿敵・『関東』…。気持ち、拘り、チーム一丸。この先の航路を決定付ける分岐点で、『佐々木組』は最高の『結果』を手に入れた。あらゆる障壁、数多の困難を乗り越え迎えた脱皮の時。「勝つべくして勝った。これでまた次のステージへ進める」(清宮監督)。
出だしでつまずいた春とは一変、この日は開始から順調だった。まずは3分。ペナルティーで得たラインアウトからねちっこくモールを押し込むと、14分には同じ形から一転してBK勝負。SO久木元孝成が判断よく自ら仕掛け、12点のリードを奪った。表面的には、気負いのない、相手の状況を見極めたドッシリとした試合運び。そこには2ヶ月前とは明らかに違う雰囲気が漂っていた。
「最初に2本取っていい感じだったけど…」(SH矢富勇毅)。しかし、そこはさすがに『関東』。他チームにはない個々の強さ、ブレイクダウンでの重さ、しつこさが徐々にワセダに圧し掛かり、瞬く間に試合は拮抗した。HB団に掛けられる強烈なプレッシャー、意志を感じる素早い出足。「捌く時に後ろからボンボン来られて焦ってしまった。選択するプレーがぶれた…」(SH矢富勇毅)。「いいプレッシャーがくるし、セットも強いし、ひとりひとりが強い。嫌なところを攻めてくる。ほんといいライバル…」(主将・佐々木隆道)。これぞまさしく対『関東』。ここでしか体験できないタイトなバトル、何としても超えなくてはいけない青波を前に、『佐々木組』の真価が問われた。
前半34分、後半2分と、足が止まった一瞬を突かれ12-14。勢いを増すマリンブルーの圧力、それかける連覇への航路…。しかし、そんなチームの危機にも、希代のスキッパー・佐々木隆道は冷静だった。「別に焦りとかはなかったですよ。個人的には久々にいい仕事ができたかなって…」。
14分、またまたペナルティーから敵陣深くでラインアウトを得ると、プチ『矢富イリュージョン』からスキッパー自らが怒涛の突進。推進力抜群の見事な走りでインゴールを陥れ(19-14)、チームを再び連覇への航海へと引き戻した。
このリアルスキッパーのトライで進むべき道を再確認すると、ここからは指揮官の言う「懐の深い」戦いぶり。「こうなったらああする。ああでてきたらこうする。キックオフから相手の出方を見てうまく攻められてよかった」(清宮監督)。ディフェンスの穴を巧みに見分け、一気のラッシュ。『音速の翼』復活トライに、今村→首藤→今村→五郎丸のスーパーライン炸裂。機を見るに敏。意のままに進まなくとも肝を押さえ、試合には勝つ「懐の深さ」で、再び『関東』を制圧した。
セットプレーの不安定さからリズムを崩し、相手のプレッシャーに冷静さを一瞬失う「ナイーブ」さも、裏を返せば発展途上のチームの魅力。「ものすごいチームになると言ったその下地はできてきている。日に日によくなっていますから」(主将・佐々木隆道)…。「残りの期間はゆっくりとやりたいことをやっていく」(清宮監督)…。ついにスタートする大学選手権連覇、打倒・トップリーグへ向けた遥かなる航海。泥臭く、拘って、みんなでひとつに。『佐々木組』の行く末には、輝く未来が待っている―
<必然の4タテ! 連覇への関所越えに、確かな手応えを感じる清宮監督>
「今回の4タテは昨年のものと中身が違う。今年の方が勝つべくして勝ったという感じ。それぞれのチームのキャプテン、FWリーダー、みんなよかったね。4年生はがんばった。柏木(Cチームキャプテン、後半30分には試合を決めるミラクル独走トライ!)ってあんなに足速かったかなぁ(笑)。相当速かったよ。Aの試合に関しては、ボールが動かないとこのチームの強みが出ないなと。やっぱりああいう戦いだと取れる点数も限られてしまう。そこは関東も意地を見せていた。関東はひとりひとりが重いし、FWが春と比べてよくなっていた。そんななか、ワセダも後半逃げずにFWで前に出られたのはよかった。スクラムの細かな優劣はビデオを見ないと何とも言えないけど、最後の3本はいいスクラムが組めていた。組み方がどうというよりも、意識を変えたことがそれにつながった。残り10分のスクラムはよかったと思う。ただそれもやっぱり相手が元気なうちにいいスクラムが組めないといけないんだけどね。今回は懐の深い戦いをしたいと言ったけど、それは相手がこうなったらああする、ああでてきたらこうするというもの。春はこれとこれとこれだけやるみたいな形で勝ったけれど、そういう意味ではキックオフから相手の出方を見てうまく攻めたり、懐の深い戦いができてよかったと思う。今日は勝ちの中からいい課題が見えたという点でもよかった。ラインアウトもだし、ブレイクダウンで相手の球も取れなかったし、ファーストタックルも外しすぎたし。やっぱり関東とやることで見えてくる課題がある。何より学生たちの関東戦だから。今日も熱かったね。これでますますみんな充実してくるんじゃないかな。今日は学生チャンピオンという意味では、絶対に乗り越えなくてはいけない試合だった。関所越えという感じ。夏合宿もこれで折り返しだけど、残りの期間はゆっくりとやりたいことをやっていく。そして9月にケンブリッジに勝つ試合して、今度は在京のファンの方にいいところを見せたいね」
<成長を実感 連覇、打倒トップリーグへ邁進する主将・佐々木隆道>
「まだまだ課題も多いけど、後半しっかりと修正できたのはチームに厚みがでてきたということだと思う。後半開始早々に逆転された場面は、SOを狙われて、FWの動きの遅さを突かれた。あの場面は自分たちでも悪いところが見えていたし、そこは解消できるところ。次の帝京戦では絶対に出しません。ここを直せばというのが分かってますから。ブレイクダウンに関しては、超えた後SHにプレッシャーが掛かっていたので、もうちょっと気の利く奴が欲しいという感じだった。でも人がいない訳ではないので、ここもすぐに修正できる。試合全体で言えば、清宮さんから指摘された修正点をみんな意識できたのがよかった。五郎丸が取ったトライはみんなで決めた形で取れたいいトライだった。ただやっぱりラインアウトとスクラムがもっと安定しないといいアタックはできない。前5人だけではなくて、FW全員もっとがんばらないとダメです。ラインアウトはもっとよくしていかないと、今のままでは公式戦で使える代物ではないですから。それは青木本人が1番分かっていると思いますけど。ディフェンスに関しては、トライを取られた時間帯は密集に人が入りすぎだったし、1人目のタックル、特に近場のところが甘かった。松本なんかはよかったけど。僕自身、関東とやるのは今年初めてだったけれど、やっぱり強い。いいプレッシャーがくるし、セット強いし、ひとりひとりが強いし、嫌なところを攻めてくる。ほんといいライバルです。でもトップリーグに勝つならこんな接点ではいけないし、もっともっとFWが強くならないと。これでは連覇止まりです。今日で自分たちのやるべきことが見えた。清宮さんはもっとすごいところを見ているんでしょうけど…。今日出た課題をひとつひとつクリアにして、もうやり残すことはないというくらいの勢いで、合宿の残りを過ごしていきたいです。このチームは勢いがなくなったら終わりですから。今日の点差は自信にしていいけど、それが過信にならないように。伸びた鼻を折っていくのが僕の仕事。でも今日の試合で満足してる奴なんていないですよ。夏の終わりには、ものすごいチームになると言ったその下地はできてきている。雰囲気もいいし、日に日によくなってきてますから。4タテはほんと嬉しいです。これで春から対関東8連勝。最高の夏って感じですね(笑)」
<チームの勝利も、自らの不甲斐なさに肩を落とす副将・青木佑輔>
「ラインアウト全然ダメでした…。練習からよくなかったところがそのまま出てしまった。自分のスローイングがうまくいっていれば、もっと楽な展開になっていたと思う。とにかく今日はチームに迷惑を掛けてしまった…。フィールドプレーに関しては、ステイするのかスイープにいくのかがうまくいっていなかったし、激しさも足りなかった。後半連続して取ったところでは、いいブレイクダウンができていましたけど。スクラムは春やったときもそうですけど、ノーコールでズルズルと出てくる相手に対してうまく組むことができなかった。後半はいい形で組めたけれど、それを最初からできるようにしないとダメです。今日セットが安定しなかったのは自分のせい。チームは関東に勝って、次のステップに進んでも、自分だけはそこにいけていないです…。みんなに迷惑を掛けてしまったので、とにかくひとりでやり続けます。どの試合でも自分に課せられているのはセットの安定。最近そこに全然集中できていないので、もう一度自分の役割をしっかりと考えてやっていきます」
<冷静さを欠いたプレー、ゲームメイクの稚拙さを猛省するSH矢富勇毅>
「とりあえず関東に勝ったのはいいこと。ただ、相手にボンボン来られて、僕自身焦ってしまったのは反省点。ディフェンスも思うようにいけず、悔いが残る。相手のプレッシャーがきつかったことで、どういうプレーをチョイスするかがぶれてしまった。もっと落ち着いてやれればよかった…。最初2本取っていい感じだったけれど、関東も球際のところが強くて、それに対してワセダが緩いプレーをして、受けて受けて、どんどん攻めにくくなってしまった。最初の10分はいつもの課題。後半先に取られて目が覚めたという感じで、あの後の展開はよかったけれど、これが決勝、拮抗したゲームだと命取りになってしまうので、そこは修正していかなくてはいけない。後半は清宮さんから指示があったように、FWがいいヒット、いいドライブをしてくれた。あの連続して取った3本は、やろうとしたことがでた。BKに関してはまだまだ精度が足りない。やろうとしていることに対して全体のスキルもまだまだだし、もちろん僕自身のパスも全然。もっとBKでガンガンいきたかったけれど、受けてしまうところもあったし、そこは課題です。ゲバでよくなかった密集の見極めは、後半よくなっていたけど、最後にまたちょっと…。ジャッカルした場面もあったけど、外で余られる場面があったりまだまだです。最後も外で取られたのは課題。今日で攻守に課題がでたので、またこれからひとつずつそれに取り組んでいきたい。自分自身も清宮さんから言われていたことが全然できていなかったので、明日、明後日の練習からまた意識を変えてやらないと。春は最後守った試合だったけれど、今日は攻めることができた。そこはチームが成長できたところかなと。前に出れば取れることが分かったし、あとはセットプレー。そこができないと、学生に勝ててもトップリーグには勝てないですから。関東はしつこかったです」
<この日も最後尾からチームを支えたFB五郎丸歩>
「今日はチームで取り組んできたことが余り出せなかったし、ブレイクダウンで相手に絡まれていいボールが出なかった。まずはブレイクダウン。そこが1番。いい球が出さえすればいける。後半は大きくゲインしたあとのブレイクダウンを取れたのがよかった。ただBKに関しては、ミスがあったときに焦ってしまって、意思統一ができていなかった。ラインの深さやスキル、そういったもの全部含めてまだまだ精度が足りない。ディフェンスで受けてしまったというより、前後半の立ち上がりがスローな展開で、リズムに乗ることができなかった。やっぱりもっと前半からいかないとダメだなと。最後に取られたトライは、WTBとのコミュニケーションが足りなかった。FBとしてもっとコーリングをしっかりとしていきたい。ケガ人も戻ってきたけれど、チームとしてそれに頼らず一歩一歩進歩していくことが大切。今日でまた課題も見えたし、それをひとつひとつやっていけば、先も見えてくると思う。結果的には勝ててよかったけれど、何本か取られたディフェンスはもっと強くしていかないといけないです。夏の照準は関東に合わせていたので、そこで出た課題を合宿の残り半分で克服して、ケンブリッジ戦、対抗戦に進んでいきたいです」