ワセダには五郎丸歩がいる、畠山健介がいる、頼れる男たちがいる―。2007・6・17、聖地・上井草での大一番。覇権奪回へ迷いなく突き進む『権丈組』は、大黒柱を欠いてもなお、チームの芯がブレることはなかった。この春全勝の帝京相手に31-14。「今日はアップからずっと見てましたけど、この試合の大事さがすごく伝わってきて、みんな気持ち入ってました。ずっと緊張してましたけど…、ホント頼れる奴らです」(主将・権丈太郎)―
試合は開始早々の2分、いきなりのキックチャージ(外国人選手の腕長っ!)でトライを奪われる最悪の立ち上がりも、慌てず、騒がず、強みを生かし、ジリジリと追い詰める展開。5分、FB五郎丸、フランカー渡辺が前に出て、最後はフィニッシャー早田健二。13分、前に出るディフェンスでボールを奪い、WTB田中渉太の60mひとり旅。FWがしっかりファイトし、ここぞという好機を生かす。そして接点では一歩も引かない。20分、BKのディフェンスミス(サボった?選手がひとり…)から一端同点にされはしたものの、それぞれが役割を果たし、主導権を握り続けた。
ブレイクダウン、コンタクト、セットプレー…、様々な要素が絡み合うなか、この日もっとも大きかったのは、キックの蹴り合い、陣取り合戦で完全に勝利したこと。その中心は言うまでもなく、最後尾にいるあの男・FB五郎丸歩。超安定のフィールディングに、的確なリターン。飛距離出る、出る。蹴りまくる相手にも動じない磐石のエリアマネジメントは、「敗北」の可能性(蹴り合いに負け、苦労したのがあの『佐々木組』の帝京大戦?)を片っ端から摘み取った。33分、有田から立って繋いで畠山、38分、橋本樹のスーパーラン(この日一番のどよめき!)から再びWTB田中渉太。26-14。ゲームは完全にワセダのものだった。<接点でファイトして、蹴り合いに常に勝つ> そりゃ負けないだろって話です…。
「点差が離れてないのはワセダが攻めてないからだろ!」(FB五郎丸)。前半は勝敗を決するための探り合い。どうしても堅くなりがち。迎えた後半、差を見せるべく一気のラッシュ!…となるハズが、午後2時過ぎから始まった40分は、さらに輪をかけたキック合戦だった。ノーチャレンジとも言うべきか、リスクを犯さないと言うべきか、ひたすら同じところを行ったり来たり。やっている当の本人たちですら、「見ている人たちにはつまらない試合だったでしょうね」と口にした展開(この日の上井草は超満員!)で、メリハリなくひたすら時間だけが過ぎていった。ひとりプレーしまくったFB五郎丸の言葉、「もっと点を取りたかったか?、まぁそもそも全然攻めてないですからね。チャンスでのミスも多かったですし…」。スローテンポになったとき、いつ、どこで仕掛けにいくのか、どこでゲームを動かしにいくのか、ひとまずキック合戦での負けはなし。『権丈組』には、今後更に強くなる余地(可能性、伸びシロ、やらないといけないこと)が存分に残されているということか。
そんなスローな展開にも関わらず、時間の経過とともに足がバッタリ、前半から緩かった内側の圧力が仕舞いにはゼロになったのはこの日最大の反省点。常に敵陣にいながら、ふとした瞬間、相手を逃がすこと度々…。「動き出しの1歩!」「反応!」。主将・権丈太郎が叫び続けたように、ワセダのアイデンティティは完全に失われていた。死ぬほどの暑さ(ワセダも帝京もヘロヘロ…)がその要因か、それとも狂ったように走り回る羽生憲久的フランカーが必要なのか…。「今年はコンタクトの強い奴が多いですけど、もっと動き出し、反応の部分を自分、3列を中心に上げていかないといけないですね」(主将・権丈太郎)。ともあれ、大きくかつ、重要な課題が残った。
結局後半のトライはカウンターを基点にしたひとつだけ。モールは引き倒されグダグダだった。内側はバテバテのスッカスカだった。しかし、そんな状況でもチームとしてグラつくことなく、キッチリと差をつけて勝てたのは大きな前進。次はいよいよ天王山、この春の集大成、関東学院大。「関東に勝ってこそ、本当に次に進める。絶対に勝ちます」(主将・権丈太郎)。『権丈組』の行く末を左右する戦い。7・1、三ツ沢決戦。そこで出る答えはただひとつ。ワセダか、カントーか、それが問題だ―
<快勝にも多くの課題を口にする中竹監督>
「攻守ともに波に乗れなかったね。今日はもっとラグビーをしたかったという感じ。キックで試合を組み立ててくる相手に簡単にゲームを切られ、ああいう風になってしまうのは、うちがもうちょっと継続すべきところもあったし、取るべきところで取っていないというのもある。今日はモールでトライを取れなかったけれど、もっとオプションを増やさないといけない。引いて倒してくる相手に対してどうするか。正面からガチガチくる相手には押せるけど、今日みたいな相手に対する対応を考える必要がある。ブレイクダウン自体は、いった、いかれたというのはあまりなかったけれど、ファーストコンタクトで芯を外されて、インサイドブレイク、後追いタックル、それで劣勢、そういう局面はあった。そこは修正ポイント。単純にやり合うだけのところは、別に問題なかった。この春色々な相手とやってきたけど、今日は関東前にいい課題が出た。今までできていたことが、できていなかったり。FWが追うのをやめて内側をブレイクされたところなんかは、本当の力をつけていたのではなくて、あのときはできていたというだけ。あとはBKのディフェンスも整備しないといけない。関東戦に向けては、やることは限られているから、焦点を絞ってやっていく」
<頼もしき仲間に信頼感を口にする主将・権丈太郎>
「今日はアップからずっと見てましたけど、この試合の大事さがすごく伝わってきて、みんな気持ち入ってました。今年のテーマでもある激しさ。ブレイクダウンで拘ってくるチームに対し、制圧できたのは収穫ですし、何より勝てたことが次に繋がる。でも、ゲーム全体のテンポをもっと上げないといけないですし、セットなど要所要所でミスが出てしまったのは反省です。取りきれなかったり、簡単に裏に出られたり。動き出しのところをはじめとして課題はたくさんありますね。今日はもっと点を取らないといけなかった。ゲームがあれだけスローテンポになって仕方のないところもありますけど、ワセダの攻めも単調でしたから。FWはBKに絡んだり、もっとできたはずです。FWにとってはタイトなゲームでしたけど、動き出し、反応が遅くて、セットできていなかった。内側からの圧力、追い。チャンスで相手のWTBに裏に出られたり…。今年はコンタクトの強い奴が多いですけど、もっと動き出し、反応の部分を自分、3列を中心に上げていかないといけないです。そこはしっかりとやっていきたい。モールについては、相手の背の高い選手が上から来てましたし、ひとりひとりが強くて重い。けど、ワセダにうまさがなかったです。押し込んではいたので、もっとコミュニケーション、例えば右にいったときどうするのか、そのあたりを詰めて、徹底していきたい。今日はすごく緊張してて(笑)、思わずレフリーにも熱くなってしまいました…。でも本当にみんな頼りになるなと。健介、五郎だけでなく、臼井に有田、みんな体を張っていて、チームがブレないのはすごく大きなことだと思います。関東戦に向けては、まず今日出た課題をしっかりと徹底して、昨年負けた接点、セット、BKであれば大外ブレイクダウン、それらはすべてこの春やってきたことだし、やるべきことをやれば、それがそのままリベンジに繋がる。関東に勝ってこそ、本当に次に進める。僕もいきますし、絶対に勝ちます」
<モールに課題 FWの不出来を反省する副将・畠山健介>
「太郎がいないということもあって、今日は僕の中で1番不安な試合でした…。昨日の夜からホント怖くてしょうがなかったです。試合に関しては…、まだまだという感じです。拘ってきたモールで取れてないですし、暑くてフィットネスを試されるなか、後半風上だったにも関わらずグダグダ。課題がたくさん見えました。モールに関しては、両サイド、エッジの意識ですね。片方でも崩されたらいかれてしまう。それはそのままチームにも言えることで、どこかに穴があったらやられてしまう。チーム力をもっともっと上げていかないといけないです。今日は納得できるゲーム、いい内容のゲームではなかった。太郎、覺來が抜けて合わないところもありましたし。Aだけがよくても勝ち続けられないということがよく分かったという感じです。コンタクトについては、ひとりひとりのタックル、バインドがしっかりできていないし、負けてます。そこは次の関東戦でも重要なファクター。まだまだ甘いということです。セットできていない点については、BKに合わせたラグビーをしているからああいうことになる。もっと自分たちからラグビーをしないといけないですね。もちろん、コンタクトの激しさ、この天候ということもありますけど。一昨年も隆道さんがいないなか関東に勝って波に乗ることができた。今日のこの試合は僕らのキッカケ。次は太郎も戻ってきてくれると思うので、しっかりと勝って、夏に向けて波に乗っていきたいです。来週はゲームがなくて1週空きますけど、全員が緊張感を切らすことなくやっていけば、結果はついてくると思ってます」
<まさにひとり舞台 獅子奮迅の活躍を見せた副将・五郎丸歩>
「とりあえずはどんな試合でも勝つことが一番の目標なので。まぁでも今日は勝ったというだけで、やってきたことはだせなかったです。全然攻めてないですから…。でも、モールを崩されたなかでこの点差。違うオプションもあるのかなという感じです。エリアマネジメントについても、前半はよくしんぼうして、敵陣でラグビーできてよかったのかなと。得点が伸びなかったのは、そもそも攻めてないですし、チャンスでのミスが多かったから。コンタクトに関しては、負けてはないですけど、しんどくなったときにグラウンドに寝ている奴の数が多過ぎる。そこは課題です。今日は権丈がいなかったですけど、今年は誰ががんばるというのではなく、全員ががんばるチームですから。でも権丈がいないとFWが締まらない気もしました…。いいディフェンスですか?、あれは抜かれまくるから自分が前に出ていただけです(とはいえ、インサイドCTBでプレーした数分間もグッドディフェンス!)。ビデオを見ないとよく分からないですけど、FWの内側の圧力も足りなかったと思います。次は関東戦。普段は2週間あるとどこかで気持ちを切ったりしてしまいますけど、今はそんな状況でない。やってきたことをしっかりと出せるように、2週間トータルで考えてやっていきます。全勝できている帝京に勝てたのは大きなことだとは思いますけど、まったく満足なんてしてないです」
<スーパーロック? この日も抜群の存在感を見せた橋本樹>
「今日は後半足が止まって、ディフェンスの出足が遅くなってしまいました。モールで取れなかったのも反省です。きつくなってきたときにノミネートが遅くなって、集中が切れたところでインサイドブレイク。みんな他人任せになってしまって、ダブルタックルに入るのも遅かったです。モールに関しては…、相手が引いてきたのに対応できませんでした。もっと自分が支えないといけなかったです。芯になるプレーヤーをきちんと守ってあげることができませんでした。接点についても、ボールを持ったときの相手は強かったとは思いますけど、ワセダはもっと激しくいかないとダメです。相手もバテてましたけど、ワセダもバテて集中が切れた。キックチェイスも全然揃ってなかったですから。裏に抜けたプレーですか?、あれはマグレ、ではないですけど(笑)、そんなにできるプレーではないです。余っていたから呼びました。欲しい場面だったので、大きなトライだったと思います。スクラムは途中でバテてお互いに仕掛けなかったという感じです。マイボールは安定してましたけど、相手ボールにもっとプレッシャーを懸けたかったです。FWのモールは今日の大きな課題。今年はFWで崩すと決めているので、関東戦では絶対にモールでトライを取ります」
<最後はグッタリ? 接点でファイトし続けたNo8豊田将万>
「今日はとにかく暑かったです。バテバテです…。試合を振り返ると…、FWがゴール前のモールで取れなかったところに課題が残りました。あまり圧力のない相手だったにも関わらず、簡単に倒されて…、BKには相当迷惑をかけてしまいましたね。ブレイクダウンについては、激しくくる相手に対し引いたら絶対にいかれると思って、がんばりました。サントリー、明治、ヤマハ、強い相手との経験も積んで、みんな引かずに激しくいけるようになってはきてますけど、まだいける。もっとガンガンいかないと。まだまだみんな大人しいです。FWのセットについては、前に出たときはドンドンいけますけど、やっぱりゲインラインを切れずに止まってしまうとしんどい。そこで帰るのががんばりどころですけど、今日はこの暑さもあって全然でした…。納得できるゲームではなかったですけど、2週間あるので、しっかりと準備をして、ベストな状態で関東戦に臨みたい。FWはモール、そしてセットの安定です。今日は権丈さんが抜けて、やっぱり頼っているところがあったんだなと。ひとりひとりの意識をもっと上げていく必要があるとよく分かりました。でないとこういうゲームになってしまう。今日はいい課題が見つかりました。次はいよいよ関東。昨年の春みたいな思いはもうしたくないですから」
<意地炸裂! Bチーム春関東を前に復活の勝利!>
Aチームに先立って行われたB戦は、FWの奮闘にBKがキッチリ応える(CTB常藤!)グッドゲーム。最後は若さからか、はたまた勝ってないチームの性か、猛攻にさらされたものの、相手のミスにも助けられ何とか逃げ切り、価値ある勝利(24-21)を手に入れた。FB三原拓郎は4年の意地を見せ、チームを引っ張り3トライ。フランカー中村拓樹も相変わらずのグレートパフォーマンス。こちらも集大成・春関東に向けギアチェンジ!!
<WTB田中渉太、絶好調!この日もキレッキレ!>