そのとき、赤黒を包み込んだのはここ数ヶ月で一番の落胆と、少しの後悔― あとちょっと…。もしもあそこで…。2008年新スローガン・『Dynamic Challenge』が心に沁みた。改めて分かったこと、やっぱり後悔ってやつは先には立たない。
近年例を見ないほど準備に時間を掛けた成果もあって、初戦、2戦目は登録メンバー全員を使いながら順調に勝利。アタックは軽やかに、テンポよくボールを動かす。ディフェンスはいくつかのトラップを仕掛けて前へ。特に『空飛ぶWTB』・田中渉太大爆発(まるで空中遊泳です)、相手に何もさせなかった大東大戦のデキは素晴らしく、最高の状態でターゲット・東海大との大一番へと駒を進めた。ザ・リベンジ。ここまでのストーリー、プロセスはほぼ完璧…。
そして2時間の休息を挟んで迎えた運命の準決勝、キックオフ7分前に下した何気ない決断が、ワセダの航路を狂わせる―。主将・田中渉太はコイントスでレシーブを選択。キックオからボールをキープし、東海の自由を奪って…。しかし、この決断を下した直後、それまで気にならないレベルだった風が突然強くなり(+雨)、選んだ陣地は強烈なアゲインスト。加えて東海大にそれまでの戦いでは見られなかったアップディフェンスを仕掛けられ、赤黒は完全にパニックに陥った。
開始早々の1分、ゴール前ペナルティからの速攻に屈すると、その後のキックオフからも相手のプレッシャーに負け、自陣に釘付け。無理して攻める、焦って攻める、ミスしてピンチ。こんなはずでは…。多くの時間を割いたなか、唯一手をつけていなかったと言ってもいい自陣釘付け、自陣ゴール前シチュエーションで後手を踏み、勝利をミスミス手放した。まさにドツボ。キャプテン田中渉太はその選択の是非に苛まれ、監督・山本裕司はその選択に至るまでの準備を悔いた。「ああしない方がよかったかも…」(田中渉太)。「キックオフでレシーブかつ風下を選んでしまった、かつ、そういったところまで指示できていなかった、話をできていなかった自分に責任を感じている。それで2本行かれてしまって、本当に痛かった。マイボールのセットがあっても、すべてインゴール寸前。やっぱりしんどい。想定外の展開。自分たちが一切実力を出すことなく終ってしまったのが、とにかく悔しい…」(山本裕司)。強い風など気にせずに真っ直ぐキック、渾沌を作り出し、そこからのリセットで勝負するのが常套だったか。ともあれ、ワセダにはまだまだ状況判断、臨機の力が不足していた。「終った今では、どうすればよかったというのがたくさんあるんですけど、やっぱりそれを試合の途中でできないのが自分たちの弱さ。そこは15人制でも必要になってくる部分なので、もっともっと高めていかないといけないです。今日でそれを痛感しました」(田中渉太)…。
勝利を掴むことはできなかったが、本気で練習し、本気で勝ちにいき、だからこそ感じられたこの悔しさ。「次の機会はもうやってこない。次がないというのはこういうものなんだと全員が分かったと思う。ワセダは全体で戦うチーム、これからどんなチームも負けて欲しくない。そのために、自分にできることを精一杯やっていきます」(副将・瀧澤直)。下を向いてばかりもいられない。たくさんあったぞ、目に見える成果も。セブンズの悔しさを糧に、『豊田組』ここからラグビーの勝負へ!
<想定外の敗戦に悔しさをあらわにする監督・山本裕司>
「キックオフでレシーブかつ風下を選んでしまったことは残念だったし、かつ、そういったところまで指示できていなかった、話をできていなかった自分に責任を感じている。それで2本行かれてしまって…。本当に痛かった。マイボールのセットがあっても、すべてインゴール寸前。やっぱりしんどい。想定外の展開になってしまった。自分たちが一切実力を出すことなく終ってしまったのが、とにかく悔しい。東海大戦は何もせずに時間だけが過ぎていったという感じ。自分としては、YCACを含め、こういった責任を持ってやる機会を得ることができて、非常に充実した時間だった。今回は自分自身も今一度頭を整理して、セブンズとはどういうものか考えて、どういう形が理想なのか学生たちともたくさん話してきた。自分の知っているすべてを彼らに伝えるというよりは、新たな挑戦。よく付いてきてくれた学生たちには本当に感謝しているし、みんな思っていた以上にうまくなって、本気で勝てると思っていた。想定外の負け方。もう1回やらせて欲しい。今はそういう思い。もちろんその1回はないんだけど…。短い時間のゲームほど、勝敗は最初のところで決まるし、飲まれてしまったらそこで終り。これはどのスポーツでもそうなんだろうけど、セブンズは特にそう。15人制の試合だったら、どこかで流れを持ってくることもできるけど、セブンズでそれは難しい。それが怖いところでもあり、おもしろいところ。学生たちは一生懸命勉強してくれて、オフロード、ディフェンス、抜くスキル、ハンドリング等々、本当にうまくなってくれたと思う。これは15人制にも絶対に生きるし、ラグビープレーヤーとして一皮剥けた彼らの活躍を期待しています」
<監督に最大の感謝 悔いなきラストイヤーを誓う主将・田中渉太>
「いやぁ、2試合目まではよかったんですけど、東海戦は何もできずに終ってしまいました。それが一番悔しいです…。1回戦、2回戦はずっと攻めていて、7分間がすごく長く感じたんですけど、東海戦のような展開になってしまうと何もできない。あっと言う間でした。あれだけプレッシャーを掛けられるとキツイです。前半はずっとゴール前に釘付けでしたから。終った今では、どうすればよかったというのがたくさんあるんですけど、やっぱりそれを試合の途中でできないのが自分たちの弱さ。そこは15人制でも必要になってくる部分なので、もっともっと高めていかないといけないです。今日で痛感しました。とにかく何もせずに終ってしまいましたし、対面にもいいように勝負されて、悔しかったです。今回は急にキャプテンをやることになって実感がなかったんですけど、みんなよくついてきてくれて、その任を何とかまっとうすることができたのかなと思います。この大会に臨むに当たって過去にないくらい準備をしてきましたけど、その時間でスコッドの絆というものをすごく感じることができました。出たメンバーのことは本当に信頼できましたし、出られなかったメンバーの分までという想いを全員が持っていた。小さな枠のなかではありましたけど、チームがひとつになれたと思います。勝つことはできなかったですけど、準備の段階から本当に楽しかったです。監督の裕司さん、コーチの羽生さんには感謝しきれません。僕たちのために平日有給まで取ってくださったり。にも関わらず、僕たちの不甲斐なさでこの結果。本当に申し訳ないです…。やっぱり4年になると色々見方が変わってくる。これまでは自分ががんばればいいという考えで、チームのこと、下のことなど気にしたことはなかったですけど、今年はそういう部分にまで気を遣って見るようになったと思います。自分がすべきは、大外からチームを引っ張ること。今年もまた早田、寛造との激しい争いがありますけど、とにかく自分のスタイル、色を出してがんばります。自分を出し切ってダメだったのなら仕方がないですし、悔いはない。今日みたいに悔いを残して終るのだけは絶対に嫌。そうならないように自分のスタイル、色を今年はゴリ押ししていきます!」
<負けることの恐怖… 改めて勝利への意欲を強くする瀧澤直>
「悔しいですね、ホントに…。セブンズだから負けてもいいとか思ってないですし、全員本気で練習して、本気で勝ちに行って、それで負けた。全力を出し切れずに負けてしまったことが悔しいです。東海戦は相手にうまくやられてしまったというか、ワセダもイマイチで…。理想の展開にならず、受けに回ってしまいました。いかんせん経験が浅くて…。この悔しさは15人制で負けるのと同じくらいのものですし、当然、次に生きるという意味ではいい経験。これまで赤黒を着てなかった人間、秩父宮で初めてプレーする人間には、プレーの面でも得るものがあったと思う。ラグビーの別の面を見ることができてみんな成長できた。いい経験、色々な経験ができたというのは、全員に言えること。これが15人制であれば、次もあるけれど、今年のセブンズはこれで最後。次の機会はもうやってこない。負けるのは本当に悔しいし、次がないというのはこういうものなんだと全員が分かったと思う。来週からいよいよ春の試合が始まりますけど、バイスキャプテンとしてはどうなるのか楽しみというのと、もちろん不安もある。まずはCDの試合からスタートですけど、ワセダは全体で戦うチーム、どんなチームも負けて欲しくない。そのために、自分にできることを精一杯やっていきます」
対武蔵工業大 33-0(前半12-0、後半21-0)
トライ:田中2、井上2、村田 ゴール:飯田4
チャンピオンシップ1回戦 対大東大 29-12(前半22-0、後半7-12)
トライ:櫻井、田中2、宮澤、掛井 ゴール:掛井2
チャンピオンシップ準決勝 対東海大 7-19(前半0-14、後半7-5)
トライ:上田 ゴール:掛井1