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2024
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<中竹監督・南アフリカ留学報告> 世界の最先端は驚きの連続

 監督の中竹です。7月9日から21日まで、南アフリカ・シャークスアカデミーで濃密な時間を過ごして参りました。HP上ではありますが、皆様にその報告をさせて頂きます。


 まず日本人にはあまり馴染みのないと思われる南アフリカについての説明から。南アフリカへの直行便はなく、シンガポール経由し、door to doorで30時間かかります。ヨハネスブルグからシャークスの本拠地であるダーバンに入りましたが、街は非常に危険で、なかなか一人では出歩くことはできません。観光客だと分かれば、襲われる危険が常につきまとい、もし襲われた場合、誰も助けてはくれません。滞在期間中は、家から一歩外に出るのにも常にシャークスの方が付き添ってくれました。「すぐそこまでだから大丈夫でしょ」と思われるところでも、常に「危ないから」と言われるくらいです。男性であっても夜ひとりで出歩くことは危険という意識があり、常に張り詰めた、タフな生活を南アフリカの人たちは送っているのだと感じました。


 南アフリカには英語、アフリカーンスなど11もの公用語があり、オランダ系白人、黒人、インド人など、様々な人種が混在します。日本とはまったく異なる環境は、貴重な経験となりました。南アフリカと日本との交流関係はほとんどないこともあって、今回はラグビー親善大使的な扱いをして頂き、大変光栄でした。


 今回私がシャークスアカデミーへ行ったのは、コーチングスキル、テクニック、ラグビーセオリーについて学びたかったからです。スキル、テクニック、フィロソフィーといった具合に、小さなところから大きなところへ広げていきたいと。現地では、シャークストップチームのコーチ陣、シャークスアカデミーのコーチ陣(右写真)、南アフリカ協会に所属するコーチ、普及担当の方、クラブのマネジメント担当者の方などと行動をともにし、南アフリカラグビーの大枠をすべて見ることができました。


 特に、スプリングボクスU19、セブンズのヘッドコーチ経験を持つチャールズには大変お世話になりました。滞在期間のほとんどを、私と行動を共にしてくれ、感謝でいっぱいです。心から尊敬できる、素晴らしいコーチでした。


 まず南アフリカのラグビーに触れ驚いたことは、若いコーチがひとりもいないということです。みな40歳以上。これはキャリアがないとコーチにはなれないということで、南アフリカラグビー全体の組織がしっかりしている証だと思います。日本の一大学の監督である私も、当初は相手にされない感じを受けました。こちらではクラブラグビーが主流で、大学ラグビーはさっぱり。クラブより下の監督かよという視線を受けましたが、現地でたまたまワセダを取り上げた『トータルラグビー』が放送され、それを機に色々話を聞いてくれるようになりました。なんだ、日本では大学ラグビーが人気なのかと(笑)。ちなみに現地には日本の企業が多く進出していることもあり、日本人は基本的に歓迎されます。


 シャークスのウエートルームには圧倒されました。広いウエートルームにはスピードトレーニングのためのレーンも併設され、フィジオが5人常駐。部屋からはすべてが見渡せるようになっており、選手たちの動きを見て、その場でどんどん指示を出します。ものすごくしっかり管理されていると感じました。これは想像以上です。


 そして、シャークストップチームのミーティング(下の写真)にも参加させて頂くことができました。基本的なスタイルはワセダと変わりませんが、何より驚いたのは、選手のためにパソコンが10台以上用意され、それぞれが試合までに対面のビデオを見て徹底分析するようになっていることです。ちなみに、現在のスーパー14の間では、チーム毎の独自の分析というものはありません。オーストラリアのある大学と契約しており、どのチームも、その大学からまったく同じデータを受け取っています。チーム毎の違いは、そのすべてが一斉に配信されるデータをどう使うのかという部分だけです。例えば、シャークスがブランビーズとの試合を控えていた場合、ブランビーズでタックルを一番外されているのは誰なのか、誰がミスしているのか、検索すればその場ですぐに分かります。逆もまたしかりです。すべてのデータが共有されているため、ごまかしは効かないということです。既に日本にも同じシステムが入ってきているので、3年後くらいには、すべてのチームが同じデータを共有するようになっているかもしれません。


 ごまかしが効かないということもあってか、シャークスでは個人練習の量が異常でした。かつては日本の方が個人練習は多いというイメージでしたが、今は完全に海外の方が上と言えると思います。シャークスに行って痛感したのは、ラグビーには色々な理論があっても、3年経ったらまったく別のものになっているということです。ひとつ例を挙げると、シャークスではスクリューキックは既に禁止で、コントロールキックだけを練習していました。本当に色々な考え方があるんだなと。ワセダとしても、これまでの理論、考え方に捉われず、新しいものをどんどん追求していく必要があると、改めて痛感しました。もちろん、いつの時代も変わらない大切なものはありますが。


 さきほど設備の話をしましたが、南アフリカは2010年にサッカーW杯を控えていることもあり、どのスタジアムもサッカーでも使えるよう改造中です。ただ、シャークスは今の形を残したいと、別の場所にサッカー用のスタジアムを作っています。ここからもラグビーへの強烈な熱を感じました。


 現地ではシャークスアカデミーだけでなく、若年層のラグビーも見てきました。先のサニックスワールドユースで優勝したグレンウッドハイスクールには、何とグラウンドが10面あり、私が見学に行った際には15歳以下の選手たちがただひたすらにスピードトレーニングの繰り返し。しかも指導に当たっていたのはオリンピック代表の陸上コーチでした。聞けば、週4回はウエートで、15歳までは重い物は持たさず、徹底的にフォームを作るところから始めるとのことです。


 さらに驚いたことに、南アフリカでは13歳以下の子供はすべて裸足でラグビーをするように決められています。実際に試合を見ましたが、スクラムを組めば滑る、キックを蹴れば滑る。しかし、裸足でやることでバランスは抜群によくなるのだそうです。若いうちからいかに育てるか、しっかり考えられていると、感銘を受けました。南アフリカは、スキルではなく、フィジカルとプライドでオーストラリア、ニュージーランドに勝つと考えているようです。スキルで言えば、シャークスで行っている新ルールへの対応も勉強してきました。


 南アフリカはW杯で2回優勝していますが、今でも一番大切にしているのは、プレッシャーに打ち克つことで、そのためには個の力を高めなければ勝てないという考えが流れています。先日のトライネーションズでは、オーストラリアに負け、国中が反省していました。W杯で優勝し、トライネーションズではニュージーランドにも勝ち、国中が騒いだ。それで今回も当たり前に勝てるという気でいたら、オーストラリアには完敗。メンタルの弱さで負けたんだと。向こうでは「キャラクター」という言葉を毎日聞かされましたが、やはり南アフリカでも当たり前のことを強調しているんだと、共感したと同時に、ワセダも見習っていこうと思います。


 今回、こうしてワセダからの留学の機会を初めて頂きましたが、是非来年以降もこの関係を続けていきたいと思っています。学生で興味を持った人間がいたら、どんどんチャレンジして欲しいし、来年はもっと多くの選手を送りたい。そのためにしっかりと単位を取って、言葉の勉強もするように指導していきます。言葉だけでなく、人としてのコミュニケーション能力を高められるように。


 最後に、南アフリカへ行って一番感じたことは、これまでは日本と距離のあった国ですが、ラグビーを学ぶには相当な刺激と、それにふさわしい環境があるということです。単にラグビーを勉強するというより、様々な人種、様々な問題を抱える中でラグビーにあれだけドップリ漬かる文化がある。これは日本はもちろん、ワセダも学ぶべきところがたくさんあると思いました。本当に貴重な経験をさせて頂きました。この経験をチームづくりに生かしていきます。今回お世話になったシャークスアカデミーのみなさま、そして何から何まで行動をともにしてくれたチャールズに、心から感謝申し上げます。ありがとうございました。

 これから夏合宿を迎えますが、私自身3度目の夏ということもあり、昨年、一昨年と比べて、プランニング、仕組みをうまく作れるのではないかと楽しみにしております。質の高い練習を行い、学生たちにはラグビーはもちろん、これからの人生についてもじっくり考える時間を作り、必ずやいい夏にします!


チャールズとともに