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コーチ特集第2回 森島弘光×前田夏洋

コーチ特集

【第2回】森島弘光×前田夏洋

 ワセダの黄金期を築き、名将とうたわれる清宮克幸元監督(平2教卒=現ヤマハ発動機監督)。現役時代、主将を務めた清宮氏を副将として支え、全国大学選手権制覇に貢献した森島弘光氏(平2教卒=山梨・日川)と前田夏洋氏(平2教卒=福岡・修猷館)。2人は今季、それぞれFWコーチ、オフェンスコーディネーターという立場から、同期である後藤禎和監督(平2社卒=東京・日比谷)をどのようにサポートしていくのか。かつて頂点を獲った者として、現役部員たちに伝えていくものとは。再びワセダが王者となるために――。FWとBKそれぞれのカギを握るお二人に話を伺った。

――お二人が主に担当しているのはAチームですか

森島: 僕のところは関係なく全般ですね。

前田: 僕の方は、下の方はあんまり時間がないので。全体的な戦略を含めてという感じですかね。

――お二人は、コーチとは別にお仕事をされていますが、主に休日にコーチングをされているのですか

森島: そうですね。

前田:私も毎回来たいんですが、私生活が忙しくて。海外出張とか、あと家に小さい子供がいるので。だからスキルコーチではなく、オフェンスコーディネーターというかたちですね。でもできるだけ土日のどちらかは顔を出すようにはしています。

森島: メールとかを使って、夏洋がこういうことをやろうよという感じでオフェンスのアイディアを投げかけて、それをグラウンドのBKコーチに伝えて、それを選手に落とし込んでというかたちですね。

前田: まあもちろんグラウンドで見たいんですけども、見ながら提案をしてという感じですね。

――前田コーチは後藤監督に「他のコーチとは違うことをやってもらう」と言われたそうですが、それはコーディネーターという部分でしょうか

前田: そうですね。後藤監督には「あまりグラウンドには行けないから」と言ったらそういう役職を作ってくれて(笑)。きょねんはアドバイザーというかたちで絡んでまして、コーチとまではいかないですけど、たまに来て喝を入れてという感じでした(笑)。

――お二人とも後藤監督から依頼を受けたのですか

森島: そうですね。僕は早いうちから後藤にコーチをやってと言われていて。話をしていくなかで、戦略とかそれをもう少し落とし込んだ戦術的な細かいことをできるのは誰だろうと話している中で、「やっぱり夏洋なんじゃないの?」ということで、夏洋だったんです。ラグビーは15人で動く中で、ある程度こういう風にしましょうという戦略や戦術が大切なんですよね。ポジションの特性で彼はずっとSOでそういうことをやってきた男だから。後藤が「他のことをやってもらう」って言っていたのは、たぶん全体的なデザインとか戦略的なことだと思います。

――具体的な指導内容を教えてください

森島: 全般的なところも見るんだけど、その中でもフッカーにフォーカスを当てています。スキルについては、スローイングやフッキングを個人個人見ていく感じですね。

――主にフッカーを担当しているということですか

森島: そうですね、主にフッカーですね。スクラムだったら、まずは「こういうスクラムを組みましょう っていうのを見るのが最初ですよね。その中でフッカーの役割にフォーカスして、ポジション練習のときにも特にフッカーを見て。もちろんフロントローの練習があればそれを全体で見てという感じですね。

――フッカーのスキル練はスクラムを組まない中でどういった指導をしているのですか

森島: スローイングであったり、何もないところでフッキングのフォームの練習と、スクラムマシーンで組みながらボールを入れてフッキングの練習というのをやっています。

――お二人は後藤監督と同期ということですが、監督としての後藤さんについてお聞かせください

森島: 彼は十数年間コーチとしてやってきて、土台をつくってきたのは、彼だと思うんですよね。僕らの代では清宮がキャプテンとして目立っていたんだけど、ここにきてようやく後藤に日が当ってきて、自分のやってきたことがそのまま自分で評価される立場になったのかなと思います。今まで後藤がたくさんいろんなことをやってきたんだけど、最終的に評価されるのはやっぱり監督だったので。評価される立場にある今はとてもやりがいがあるんじゃないかなと。

前田: 後藤はプロのコーチと自負していますけれども、まあその通りだなと。仕事でもそうなんですが、やっぱり彼の場合プロのコーチとしてコアがしっかりしているというか、ブレないですよね。まあ清宮もそうなんですけれども、後藤もその辺がブレないというところがあって、自分がどうすべきっていうのをしっかり分かっているし、我々はそこに合わせてコーチングができるので。明確に指示を出してくるし、非常にクリアですよね。だからやりやすいと言えばやりやすいですね。

――現役のころの後藤監督はどのような方でしたか

森島: 後藤は1年のときは、毎日「あしたは辞める」、「あしたは辞める」と言っていて(笑)。ここまでラグビーにのめり込むとは僕らの同期は全く思っていなかった感じですね。

前田: 後藤は身体能力的には優れていて、でもケガをしたりだとか、先輩に目を付けられるとか(笑)。まあワセダっていうのは特にBKから見て両ロックが非常に大事で、そこが走れるか走れないかでその年が強いか弱いかも決まるというか。4年生のときに、もう一人4年生だったんですけれども、二人とも4年生で、走っていいプレーヤーだったなと。まあちょっと後藤はやんちゃなところもあって、試合中とかいろいろ相手をおちょくったりして、まあそれはそれでいい味になっていたかなと(笑)。

――いまこのように同期がそろってコーチングする姿を、現役当時は想像していましたか

森島: もう歳とっちゃったからなあ(笑)。

一同: (笑)。

前田: まああんまり想像はできないですよね。というのは、我々が4年生のときは、清宮がキャプテンで、森島と私がバイスキャプテンというかたちである程度いろいろ考えてきたので、そのころの後藤はそこまで首脳陣の中には入っていなかったのでね。ただ清宮が監督のときに後藤がフルタイムのコーチとして入ってきて、成長っぷりと言ったら悪いですけれども、ここまでラグビーにのめり込んで、ここまで知識がついて、ここまで経験してるっていうのを見て、すごいなというのを感じましたけどね。学生のころは(こうなるとは)全く想像していませんでしたね。

森島: 足も速かったりして、ものすごくセンスがあってね。ただケガが多かったっていうのと細かったんですかね。1年生のときから上のチームに上がっていたんだけれど、ケガしては落ち、ケガしては落ちっていうのを繰り返して3年生くらいからレギュラーに定着したんですよね。

――昔の関係といまの関係でなにか違いはありますか

森島: うーん、あんまり。僕らの学年はすごい仲がよかったので、そんなに違和感はないですね。グラウンドに来たら、「あ、夏洋がいる」、「あ、後藤がいる」っていう感じで、学生時代からあんまり変わらないですね。

前田: そうだね。あんまり変わらないね(笑)。

――お二人から見て春シーズンの成績はいかがですか

森島: 勝ち進めていることは重要かもしれないですけど、やっぱり課題はたくさんありますしね。もっと勝ったり負けたりというか、厳しいゲームを体験できた方がよかったんじゃないかっていうのは一つありますよね。

前田: いや、もうその通りです。他の大学が弱すぎるなと。正直言って、意図していることの10パーセントもできていないかなと。やりたいことができていないのに大差で勝っちゃったりするので。

森島: そうなんです。勝っちゃうと見えなくなっちゃうところがたくさんあるから。

前田: だからとにかく目標がなんなのかと。帝京大がことし見る限りではまた強くて、多分いまやったらうち勝てないんですよね。いまの感じだと、ゆるくて甘いので。勝つ中でも意識を高く持って、課題を1個1個克服していくような意識でやっていくともっと上を目指せるのに、ちょっとその辺がまだ甘いと。

――意図していることとは、具体的にどのようなことですか

前田: 具体的には我々がいま目指している、後藤が言っているような神出鬼没のラグビーなどいろいろありますが、そういうラグビーをするためにはまだまだ走れてないし、BKもまだまだスキルもダメだし、そのあたりを含めてですね。

森島: 試合中、本当だったら抜けない場面で、「じゃあ次の展開はこうしよう っていう設定をしているところが「あれ?抜けちゃった」って。本当だったら強い相手だったらこうじゃないでしょってところで、それが抜けちゃったりして、それが結果オーライってなってきてそれが染み込んでくるとプレーが甘くなってきますよね。

――そのような中でも、成長が見える点はどのような部分ですか

森島: 僕が見ているのはFWなので、やっぱりスクラム全体のプレーというのは上がってきていますよね。ただそれでもやっぱりまだ。成長はしてきているけどもまだまだですね(笑)。

――大型FWを強みとする明大相手にも、スクラムで押していました

森島: あのあたりでメイジ相手にスクラムがまあまあよかったとしても、メイジさんは後日スクラムだけ組みにこっち(上井草)に来たんですよ。U-20のメンバーがいなくて人が足りないということで、スクラムだけ組みましょうって言って来たんですけど、そのときは(ワセダが)劣勢だったんですよね。

――ことしのスクラムの目指す形は

森島: ずっと変わらないんですけど、1番効率良く全員の力を相手に伝えるっていうのを…。これ長くなっちゃうな(笑)。

一同: (笑)。

森島: まずフロントローがきちんとしたプラットフォームを作って、8人全員で押しましょうっていうスクラムです。

――スクラムの改善点は

森島: やっぱり自分の形を優先させるっていうのはいいんだけど、それで後ろの押しが効率良く伝わらないっていう場面っていうのがいくつかあって、特にフロントローなんですけどね。その中でも自分がちょっと勝った勝たないっていうので満足するのではなくて、全体で押せるような足の運びだとかボディーポジションなどができればいいんじゃないでしょうか。

――前田コーチから見たBKの成長点は

前田: もともとポテンシャルはあったので、スキルに関してはみんなかなり成長しています。それに今駒さん(憲二BKコーチ、昭63教卒=神奈川・生田)だったり、武川(正敏BKコーチ、平14教卒=山梨・日川)だったりがスキルを教えていってその部分は成長したと思うんですけど、まだまだ染み付いてないなと。もうちょっと夏合宿で、もうひとひねり体に身につくのかなと思います。あと意識がまだまだ低いです。

――ことしのBKのスタイルはありますか

前田: 難しいですけど、今のラグビーって昔と違ってBKで(点を)取るとかそういうラグビーじゃなくなってきているんですよ。でもそのなかでも、BKであるこだわり、BKであるというプライドを持ってほしいんです。君たちは15人がFWのチームじゃないんだよと。ボールを持って縦に突っ込む、これはBKじゃなくてもできるでしょ、と。BKだからこそできるプレーにこだわってほしいんですね。特にワセダとして。ワセダしかできないものを。

――ポジション争いも激しいですが

森島: そういう状況じゃなきゃだめですよね。やっぱり下から突き上げて、上は自分のポジションを守りたいという形じゃない限りは。チーム内で争いが生まれないとチームの成長もないから。それだったら良い状態なんじゃないでしょうか。

前田: もっと下から突き上げてほしいです。下の(チームの)連中がもっと成長してどんどんレベルを上げてほしい。正直BKについては今のA、Bなりのある程度のレベルに達したメンバーというのはまだまだ足りない。シーズンを戦っていくときにはある程度メンバーがもっと充実していないと、シーズンを乗り切れないなというのが正直なところです。

森島: ことし大学選手権のシステムが変わって試合数が増えるんです。だから少なくとも2チーム分、同じような力を持った選手がいなければいけないですね。それにプラスでケガ人が出ると思うので、その下にいるバックアップメンバーが厚くないと勝ち抜くのは難しくなりますね。

――「この選手に成長してほしい という選手はいますか

森島: 僕はフッカーなのでこいつがというよりか、フッカーでAチーム争いをしている須藤(拓輝、スポ3=東京・国学院久我山)と伊藤(平一郎、スポ4=大分舞鶴)が高いレベルで争うことによって、他のフッカーやみんなを引っ張り上げてほしいです。そういう意味ではプロップ上田(竜太郎主将、スポ4=東福岡)はキャプテンで今のまま伸びていってほしいんだけど、あとはプロップ垣永(真之介、スポ3=東福岡)。日本を代表するフロントローに成長してほしいです。

前田: HB団ですね。SHとSO、ここがカギなので。SHは特に、争いはまだまだ。ことしのラグビーはSHとSOの判断力がキーになってくるので、もっともっと下から突き上げてきてほしいです。

――前田コーチがSHに求めることは何ですか

前田: 本来ならば球のさばきは基本的なところですよね。そこができてなかったらSHとしては認めないと(笑)。ことしの場合それに加えてFWをうまく使える判断力。この2つを持ってないと、現代のラグビーでのSHとしては厳しいのかなと思います。

――U-20日本代表にもHBの選手が選出されていますが、シニアチームで出場経験のないSH中尾康太郎選手(スポ2=福岡)はどのような選手ですか

前田: 我々も(試合に出場したところを)見たことがないんですよ(笑)。後藤もそう言っていて、みんな見たことがないんですよ。ちなみに中尾くんは私たちの同期の息子なんです。浪人して入ってきたので1つ学年は下で。私たちは親父をよく知っているので、期待しています(笑)。

森島: 親父を超えたな(笑)。

一同: (笑)。

――U-20日本代表の選手たちが帰ってきたらまた楽しみですね

前田: U-20の連中がいない間にもっと、「戻ってきても場所ないよ」 っていうくらい頑張ってほしいなというのが正直なところです。

――夏に向けてどのようなことに取り組みたいですか

森島: FWについてはまた1カ月オフになるので、もう一度体を大きくすること。体重を増やすことと筋肉量を増やすっていうことが一つで。夏合宿からシーズンに向けて、ある程度春に作ってきた土台の上にもう一つ、スキル系とか個別に作ってきたスクラムとか、チームの戦術にフィットさせるような感じのものを作っていきたいです。

前田: BKについて言うと、ちょっと今緩んでいるところがあるので、それを7月で1回引き締めて、もう1回スキルを教え直すと。それをやったところで夏合宿に入って、ラインで動くという部分と基本的なスキル、重要なトライを取りに行くスキルなどを植え付けたいなと思います。これは後藤監督と私が話しているんですけど、全体としてはこの春でどのレベルまで行ったかというのをチェックして、最終的にどのレベルまで達しようかと。要は修正しなければいけないのか、今まで目指した通りそこまで行こうとするのか。それによって夏合宿でどこまで落とし込むかを決めていこうと思います。

――8月末の帝京大戦は一つの山場になりますか

前田: いえ、私はそこまでは考えていません。でもFWは結構そうだよね。スクラムを見る面では。

森島: 今までずっと勝ち続けてしまっているから、そういう意味で言ったらどのくらいやってるかという判断の基準の一つにはなるでしょうね。どこまでできるかというね。

――昨季のワセダと比べて、チームをどうご覧になりますか

森島: 一つは今勝ってることによる自信がちょっとずつ生まれてきたんじゃないかな。でもそれが過信にならないようにしなきゃいけないんですけど。

――選手とコーチ陣が目指す意識の共有は、できている状態ですか

森島: 言葉では共有できてますよね。本当にどうなんだろうって思うところは、もちろん教える側と教えられる側の違いがあるので。

――選手たち自身も意識を共有できていると感じますか

森島: まあ選手によりけりですけどね。本当に意識の高い奴はやっぱり伸びていくし、言葉だけ捉えて自分の頭のなかでそれが描けない選手は…。

前田: 前の年に比べて、前々から辻監督が非常に甘えたところを厳しくしてきたことは知っているので。ただきょねんでも甘いんですよね。1つ1つのプレーに対するミスに対する。1個1個のプレー、反応に対する意識が全部低くて。それをきょねんずっと言い続けて。でもミスが多くて、最後自滅というかたちでした。ことしも同じようなことを言っていて。でも我々がどんなに言っても学生が本当に意識しないとダメで。特にリーダーがしっかりとそこを意識してやっていかないと。BKは平日にコーチがなかなかいませんので、そこのところでリーダーにがんばってほしいな、というところはありますけど。きょうのゲーム(6月24日、関東大学春季大会 大東大戦)を見る限りだと、緩くなっているのかなという感じで、ちょっと(選手に)聞いてみたら「その通りだ」ということで…。もう一回喝を入れておきましたけれども。難しいところで、勝つか負けるかという部分で、「我々の代は勝ちました」と。どうして勝ったかというのもある程度分かります。ただ勝っていない代は分からないのかもしれない。そこの意識を一個間違えると、泣くのは学生なので、そこはできるだけ分からせてあげたいなというところですね。

――ことしは4年生が主戦力となりました

森島: メンバー構成を見てもらっても上級生、特に4年生が中心だし、キャプテンの上田を中心にきょねんと比較はできないながらも、4年生がチームの名実ともに中心になってきているので、やはり4年生の力が大切ですよね。

前田: BKは物足りないですよね、4年生。もっと、もっと引っ張っていってもらいたいです。要所要所は4年生なんですけど、そこがもっと引っ張ってほしいなという気がしてますね。

――BKについてはまだまだこれからということですか

前田: そうですね。彼らがまず意識を変えてくれないと。まあ今から変わっていくでしょう。

――FWについてはいかがですか

森島: スクラムやFWが強いんじゃないかと言われていた中で、ちょっとくらい「お、なんか押してるじゃないか」という感じではダメです。やっぱり本当に強いチームはブレないから、相手がブレないチームだったら勝てないと思うんですよ。だからスクラムだったら押し切って勝つとか、完全にコントロールするところまでいかないと、スクラムを利点にして、「このチームはFWがアドバンテージ」ってなかなか言えないと思うんです。だからそこまで持っていけたらなというところですね。

前田:(FWを)そこまで持っていってもらえれば、あとはどうにでもできるなと。正直ここ何年、きょねんだったらミスさえなければ決勝まで絶対行ってるし、きょねん僕が見ている中で強いチームって天理だけだったんですよね。で、帝京に勝てるチームってワセダしかいなかったんです。ところがどっこいカントーにやられてしまったので。やっぱり意識の部分、まずはミスをなくして、そしてそつなく点数を取っていければ、確実にワセダの場合は決勝まで行く力はあります。でも上に行くだけじゃ面白くないので、見せるラグビーをやっていきたいなと。

――それでは最後に、4年ぶりの『荒ぶる』獲得に向けて、意気込みをお聞かせください

森島: やっぱりやるからには必ず勝って結果を出して、4年生に卒業してほしいですよね。

前田: 先ほども言ったんですけど、確実に意識を高めて、我々が考えているラグビーをしっかりと落とし込んで学生がラグビーをエンジョイしてくれれば、確実に勝てると思いますね。もちろん最後は学生次第。我々はそのシナリオはもう用意してあります。

――ありがとうございました!