早稲田スポーツ特集
【第1回】荻野岳志×佐藤穣司
-U20の経験を糧にー
※この取材は10月4日に行ったものです。
「ジャパンのプレーが通用することが分かった」(佐藤穣)
――U20世代の有望選手発掘・育成プロジェクトとして行われたTIDシニアキャンプではどのような練習をしましたか
佐藤穣 効率よく内容の濃い練習が出来たと思います。ミーティングでその日に何をやるのかが決められるんですが、期間が短いので集中してやりきることができました。
荻野 周りがレベルの高い同世代の選手ばかりだったので、毎日刺激をもらいました。
――合宿中辛いことはありましたか
荻野 合宿自体は4日間くらいだったんですが、朝ウエイトをして午前、午後と練習があり、フィットネスもあったので体力的な負担は大きかったですね。
――チリで行われたIRBジュニアワールドトロフィーのカナダ戦は15―39という大差での敗北でした。敗因は何でしょうか
佐藤穣 練習の時から言われていたファンダメンタルやボディーポジションの部分で、やってきたことを出せなかったのが一番大きかったと思います。
荻野 上手くパスがつながらなかったり、ミスボールを取られてしまったりと、展開するラグビーができませんでした。
――実際に海外の選手と対戦して体格差はどう感じましたか
佐藤穣 体格差はもちろんありましたが、日本の低いプレーや数で勝負すれば、通用する部分もあることがわかったので良かったです。
荻野 日本の大学にはいないような体格の選手と対戦できたので、とてもいい経験になりましたね。
――3位決定戦のチリ戦は相手のホームで試合が行われましたが、やりづらさはありましたか
荻野 やばかったねー(笑)。
佐藤穣 すごかったですね、あれは(笑)。外国の試合を見てもらったらわかると思うんですけど、応援もすごくてやじも結構ありました。
荻野 何て言ってるかわかったの?チリ語なのに(笑)。
一同 (笑)。
――結果は35―38でしたが、どう捉えましたか
荻野 本当にラスト5分くらいでジャパンが逆転して、めちゃめちゃ盛り上がったんです。そしてここから引き締めていこうという場面でスクラムでターンオーバーされてしまって…。
佐藤穣 最後は集中力で負けてしまったって感じでした。
――世界レベルの選手と対戦して得たものは何かありますか
佐藤穣 ジャパンがやってきた低いプレーが通用することがわかったので、そこをもっと追求していきたいです。
荻野 僕は体が大きい方ではないんですが、自分の持ち味であるランの部分を出していければまだやっていけるなと自信につながりましたね。
――チリではどのような料理を食べましたか
佐藤穣 羊の肉ですね。でも味付けがちょっと…。まるで筋肉をそのまま食べているような味でした。
一同 (笑)。
荻野 確かに味がしなかったです(笑)。ジャパンが炊飯器を持ってきてくれていたので、現地で買ったタイ米を炊いたりもしました。タイ米は向こうの料理としても出てきていたんですけど、炊飯器で炊いたものとは全然味が違いましたね。
――チリ料理はおいしくはなかったんですか
荻野 はい(笑)。
佐藤穣 でもチキンは結構おいしかったですよ。
荻野 いやー(笑)。でも卵は日本と同じでした。大人気で出てきたらすぐに無くなっていましたね。
佐藤穣 パスタも普通でした。でもたまに変な味の時もあって…。
荻野 余計な味付けしちゃうんですよね。パスタだけでいいんですけど(笑)。
――他国の選手との交流はありましたか
荻野 帰る前日くらいにそれぞれのチームのTシャツやグッズをもらったりしました。
佐藤穣 (今着ている)このTシャツがそうです。イタリア代表のものですね。
荻野 この取材のために(笑)?
佐藤穣 たまたまですよ(笑)。
――チリで一番驚いたことは何ですか
佐藤穣 あ!ファンみたいな…。
荻野 出待ちがいたんです。
佐藤穣 本当にジャニーズみたいな感じですよ(笑)。
荻野 (開催地の)テムコにとっては大会が一大イベントだったようで、高校生くらいのファンの人たちからキャーキャー言われました。
佐藤穣 サインや写真をお願いされたりもしましたね。試合後はバスまでの道にアーチができていたんです。
荻野 小さい子も来てくれていてサイン会みたいでした。
――代表メンバーで「この人はすごい」と思った人は誰ですか
佐藤穣 西内さん(勇人、法大)ですね。
荻野 ジャパンのキャプテンです。ボールを持ったら絶対前に出るんです。
佐藤穣 体を張りまくっていてプレー中は本当にかっこいいですね。
――4試合行った中で一番印象に残っている試合はどれですか
荻野 やはりチリ戦ですかね。
佐藤穣 そうですね。
荻野 他の3試合は普通の会場でやったんですが、チリ戦はスタジアムで行われたんです。相手チームのホームということもあって、観客の数も全く違いました。最後の負け方も劇的でしたね。「勝った!」と思っていたんですけど…。
佐藤穣 いや、僕は気持ちを引き締めていました。
荻野 ずるいよ(笑)。
「チームが変わるきっかけになれたら」(荻野)
――春先、調子の良くなかった早大の様子をご存知でしたか
荻野 知っていました。チリで朝食を取ってる時に穣司が「荻野さん知ってる?」みたいなふうに言ってきて。僕らもどうしたのかなと思っていました。点数しか分からなかったので。
――その状況について早大の選手から連絡等は来ましたか
荻野 いや特に。でも早スポの記事で試合の内容は読みました。いつも見てます(笑)。
――チームに合流した初戦、明大との試合前にお二人で話し合いはされましたか
荻野 僕らが帰ったら頑張ろうというのはありましたね。
佐藤穣 それはありましたね。
荻野 慶大に大敗したりしていたチームが変わるきっかけになれたらいいなと。
――明大戦を振り返ってどうでしょうか
佐藤穣 自分は何かやったというわけではないですけど、荻野さんはやっぱりすごかったです。
荻野 いやいやいや(笑)。ずるいよ、先輩立ててさ(笑)。
佐藤穣 でも本当に思ってます。
荻野 チームの人から、なかなかチャンスでトライが取りきれないということを聞いてたのでトライにこだわって試合に臨みました。
――その後の帝京大戦でも17-22と競り合いましたね
荻野 差は昨年よりは縮まったと思います。でも最後に引き離すというところは、帝京大は勝ち慣れしてるという印象を受けました。逆にワセダとしては最後に点差を離されてしまったのは負け癖がついているというか、よくなかったと思います。
――逆に通用した部分はどこでしょうか
佐藤穣 ディフェンスがよかったですよね。しつこさが出た試合だったと思います。
荻野 そうだね。坪郷さん(勇輝、商4=東京・早実)がよかったよね。本当に帝京大戦ではみんな気持ち入っていて、タックルがよかったと思います。
――8月には夏合宿に入りました。今回の合宿を振り返ってください
荻野 きついよね、合宿は。
佐藤穣 きついけど、自分的に昨年よりは1年生の仕事がない分楽でした。自分は1年前の夏合宿でAチームに絡ませてもらって。その圧がけっこうあって、体重もだいぶ痩せてしまったんです。その時は練習をただこなすだけで、早く1日が終わればいいなとか早く合宿が終わればいいなという感じでやってました。でも今回は一回一回の練習に集中してやれていましたし、充実してできた合宿だったと思います。
荻野 3度目の夏合宿だったので、気が付いたら終わっていたという感じでした。やることが本当にラグビーだけなので、ラグビーに集中できた3週間だったと思います。
――1年生の時の仕事で一番嫌だったことは何でしょうか
佐藤穣 自分はお風呂掃除が担当だったんですけど、みんながお風呂に入り終わった後に掃除に行くので寝るのは遅くなりましたね。その上、自分は朝ウエイトというのを入れられていて。朝が早かったですし、人より睡眠時間が短くてきつかったです。昼寝の時間もあるんですけど、自分はその練習(ウエイト)があって。あまり寝られずにグラウンドに出て…という感じでめちゃくちゃしんどかったです。
――合宿の後半に行われた帝京大戦では24-39という結果でした。春の帝京大戦と比較してどうでしたか
佐藤穣 後藤さん(禎和監督、平2社卒=東京・日比谷)がいつも言っているように、『規律と集中力』の差が大きいと思います。そこの部分の差を詰めていかないと、帝京大には勝つことができないのではないかと思うような試合でした。でもマイナスの部分だけではなくて、アタックで点が取れたりしたのでそういう面はよかったと思います。
荻野 点差は春より開いてしまったのですが、春よりも夏の方が自分たちがやってきたアタックで点が取れたので自信になりました。でも後半20分にどうしても帝京大に離されてしまうので、そこでもう一度ペースを握れたら…勝てるよね?
佐藤穣 はい。
――先ほど話題に出た『規律と集中力』というキーワードを意識して試合に臨んでいますか
佐藤穣 そうですね。帝京大戦では自分自身、いらないペナルティーがあったのでそこからは反省して練習から意識するようにしています。あと、私生活の態度が試合に出るということは高校生の時から言われていて。今も(金)正奎さん(教4=大阪・常翔啓光学園)を筆頭に口酸っぱく言われているので、そういう所を改めていけたらいいと思います。
荻野 帝京大との試合では、ペナルティーを取られたら自陣に押し込まれ、得点を取られてしまうというシーンが多かったですね。でも『規律と集中力』を意識するように言われた後の流通経大戦では、自分たちはペナルティーが少なく、逆に相手は多くて。それで楽に試合が運べたので、『規律と集中力』は大事だと感じました。
――その後、チームのキーワードとして『クレバー』も加わりました。試合中に意識することはありますか
荻野 効率よくターンオーバーボールを敵陣に運ぶとか、相手のミスボールに反応してゲインしたりとか。そういう所ですね。
佐藤穣 自分は今サイン出しをやらせてもらっているのですが、難しいですよね。賢さがもっと欲しいです(笑)。
――ラインアウトのサイン出しはどのように決めるのですか
佐藤穣 時間がある時はみんなで話し合って決めます。時間がない時は自分で自信のある所にサインを出したりとか。事前にこういう感じで出そうというのは決めてあるんですけど、試合当日によって相手の並び方が変わったら変えていかないといけないので、その場で決めることもありますね。
――夏合宿では『荒ぶる』の練習をしたとうかがいました
荻野 毎年山に登って全員で歌います。本番はまだ一度も歌ったことはないので歌いたいです。
――9月は体を作り直す期間だったとうかがったのですが、体重に変化はありましたか
荻野 ウエイトももちろんハードだったんですけど、練習も厳しかったので僕は維持するのが精一杯でした。
佐藤穣 僕は体重を4キロほど上げました。自分は夏合宿の時に足を痛めてしまっていて。なので練習には合流せずにウエイトと、リハビリの方でフィットネスをやっていました。結果、ウエイトアップできたのでよかったです。
「強みを抑えて圧倒したい」(佐藤穣)
――夏合宿から約1カ月後、関東大学対抗戦では筑波大から3年ぶりの勝ち星を奪いました。勝因は何だったのでしょうか
佐藤穣 最後まで集中力が切れずにやれていた結果が最後の勝利につながったと思います。でも最後にトライされたのはFWが順目に動けていなかったことが要因だと思うので、そこは反省しなければいけないと思います。
荻野 チームは今まで後半の最後の部分で離されてしまう部分が多くて。そういう意味では最後のロスタイムで逆転できたというのはいいイメージが付いたと思います。これをきっかけとして帝京大戦ではラストにペースを握れるようにしたいです。
――スクラムで圧倒しましたが、あれは狙い通りだったのでしょうか
荻野 僕も見ていてびっくりしました。
佐藤穣 僕は後ろから押す事で精一杯だったので。フロントファイブの勝利だと思います。
――ラインアウトはどうでしょうか
荻野 いい所でターンオーバーしたよね。
佐藤穣 運が良かったです。
――最後のPGは入ると思っていましたか
佐藤穣 (浅見)晋吾(スポ2=神奈川・桐蔭学園)は持ってるんで(笑)。
荻野 夏の帝京大B戦の時も、けっこう離れた場所から決めていたので、プレッシャーに強いですね。
佐藤穣 でもその後のチェイスには備えていました。相手のバックスリーにはすごい人がそろっているので、カウンターには注意しようと。
――筑波大に勝利した後のチームの雰囲気はどうでしょうか
荻野 その日は本当に喜んだのですが、過信はしないようにしようと。次は帝京大が待っているので。次の日からは切り替えましたね。
――11月3日の帝京大戦に向けてどのような所を改善したいと思いますか
荻野 筑波大戦ではFWがセットプレーで、多くの相手のボールをターンオーバーしてくれました。それだけFWが有利な展開の中で3トライしか取れなかったというのは、反省しなければならないところですね。帝京大戦が相手だとチャンスは何度もないと思うので、そういうワンチャンスをトライできるようにならなきゃいけないと思います。
佐藤穣 帝京大はFWが核になってくると思うので、そこで負けてしまうと春や夏と同じような結果になってしまうと思います。なので帝京大の強みであるところを抑えて、逆に圧倒したいなと。それができるようになったら絶対に勝てると思うので、精度を高めていきたいと思います。
――帝京大との試合は他の大学と思い入れは違いますか
荻野 そうですね。(全国大学選手権で)4連覇していますし。本当にチームとしては帝京大だけを目標としてやっているので。一番上のカテゴリーでみんなの代表として出ている分、気持ちは入りますね。
――帝京大に勝つための課題はありますか
荻野 BKは余った状況でトライを取り切れるスキルを身に着けることですね。相手のミスボールをもっとうまくトライにつなげられたらいいなと思います。
「最後は笑って終えられるようなチームに」(荻野)
――昨年は中鶴隆彰さん(平25スポ卒=現サントリー)が付けていた背番号14に対する思いを教えてください
荻野 本当にすごい方だったので。鶴さんが引退するとき、ジャージーに寄せ書きを書いてもらう際、「14番は任せたぞ」って書いてもらえて。鶴さんの代には日本一になれなかったので、僕らの代で日本一になりたいです。
――早大では多くの有名選手がNO・8として活躍してきましたが、重みを感じることはありますか
佐藤穣 NO・8というポジションは高校からずっとやっていたのでそんなに意識することはありません。でも赤黒ということでプライドを持って戦わないといけないとは思います。緊張もしますが試合が始まると「やってやる」という気持ちですね。
――それぞれ理想とするプレーヤー像を教えてください
佐藤穣 後藤さんもNO・8に求めるのはセンスだと昨年おっしゃっていたので、何でもこなせるような選手になりたいと思います。
荻野 ワセダはバックスリーが点を取るので。そういう意味ではトライにこだわって走るだけですね。ディフェンスよりはアタックの方が自信があるので。
――お互いの強みを教えてください
荻野 NO・8として必要な器用さという部分も備えている絶対的なNO・8ですね。
佐藤穣 持ち上げますね(笑)。荻野さん自身もアタックに自信があると言っていたんですけど本当にその通りで。ボールを持ったら絶対ゲインしますし。さっきディフェンスはそんなに…と言っていたんですけど、筑波大戦ではディフェンスでも活躍していましたし。自分の思っている以上にどっちもできているんじゃないかと思います。一番ゲイン出来るバックスリーですね。
――今後の勝敗を左右するキーマンは誰だと思いますか
佐藤穣 全員です。
荻野 垣永さん(真之介主将、スポ4=東福岡)とか正奎さんとかはプレー以外の面でもみんなを引っ張ってくれますし。頼れるリーダーたちなので、その人たちに着いていこうという気持ちは強くあります。
――主将と副将のお二人はどのような存在でしょうか
荻野 垣永さんはチームが沈んだ時も一人で盛り上げようとしてくれます。正奎さんはスキルの面を試合中でも冷静に話してくれるので、二人があってのワセダだと思います。
佐藤穣 信頼できますし、頼りになります。力を100%出して大学選手権を終わらせてあげたいですね。
――他大学で意識している選手はいますか
荻野 筑波大のWTB福岡堅樹とかは同じ世代で代表に入っていますし。身近な選手がジャパンにいて刺激になります。
――『荒ぶる』に向けて意気込みをお願いします
荻野 大学入ってから一度も日本一になっていないので本当に未知です。まずは11月3日に帝京大に勝って、大学選手権の決勝を戦えるようにしたいです。最後笑って終えられるようなチームになりたいと思います。
佐藤穣 まだ大学に入って二年目ですが、『荒ぶる』とはどんなものなのか分からないので絶対に取りたいです。このチームは本当にいいチームなのでそれにふさわしいと思いますし。ここからの頑張りが勝敗を左右すると思うので、一日一日を大切にして臨んでいきたいと思います。
――ありがとうございました!
(取材・編集 近藤万里奈、高原亜弥)
荻野岳志(おぎの・たけし)
1993年1月5日生まれのO型。175センチ、78キロ。神奈川・柏陽高出身。先進理工学部3年。ポジションはWTB。スマホゲームの「パズドラ」にはまっているという荻野選手。その腕前は相当らしく「パズドラのことなら聞いてください」と力強く語ってらっしゃいました!ちなみに「課金はしないのがポリシー」だそうです。
佐藤穣司(さとう・じょうじ)
1993年8月3日生まれのA型。184センチ、97キロ。山梨・日川高出身。スポーツ科学部3年。ポジションはNO・8。遠征先のチリで「パズドラ」を始めたという佐藤選手。「荻野さんと違って、始めたばかりなので全然弱いんですよ」とはにかみながら答えてくれました。試合中のクールな姿からは想像できない意外な一面ですね!